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AppleとFBIの確執からみる”クック時代”の社風とテック企業のリーダーのあり方とは

Tim-Cook_Apple

クックの時代。彼がiPhoneでどうやってイノベーションを起こしたか、ではなく、彼が繰り返し強調するユーザの個人情報のセキュリティについて、いずれAppleが歴史になった時に彼が記録されるのかもしれない。

最近AppleがFBIと対峙している事件は、Appleの企業文化か露骨に現れているといっても過言ではない。ティム・クック(Tim Cook)CEOがiPhoneのセキュリティ問題についてユーザに向けて書いた公開状は、AppleのCEOとしてAppleに烙印を刻んだのと同じ事だ。このような大背景の中で、独特なAppleの社風と企業文化を維持し続け、また製品そのものも先進的で常にスポットを浴び続けること、それがクック自身が築いているAppleのリーダーとしてのあり方なのかもしれない。

この記事はWeiPhoneの記事を元にしている。

 

Apple製品のユーザ体験

Appleはなぜ積極的にFBIに協力しないのか?それはそれだけの力を注いでも、Apple製品のUX(ユーザ体験)を守ろうとしているからだ。AppleにはMapsの失敗、委託先工場(主にFoxconn)での従業員の自殺や劣悪な労働条件の問題、極端な環境保護主張者による攻撃、データのプライバシーとセキュリティなど、クックCEOを悩ませる問題が山積みだ。

しかしクックCEOとジョニー・アイブCDOはApple製品の構想に集中し、自らにApple製品のUXを守って育てていく重責を課している。クックCEOの渡世のポイントはこの2点にあるといえる。それはすなわち、セキュリティとプライバシー、そしてユーザの信頼だ。

 

セキュリティとプライバシー

以前から、我々はクックがセキュリティとプライバシーの問題での立場はずっと固く変わらないということを知っている。先週FBIがAppleに銃乱射テロ事件の犯人(既に故人)のiPhoneにバックドアを仕掛けてアンロックしてほしいと頼んだところ、クックは協力を拒んだ。このことは別にそれほど驚くべき事ではない。AppleのCEOに就任して以来、クックは人権保護の観点から、ユーザのデータセキュリティの保護には人一倍気を遣ってきた。この姿勢は他のテック企業とは全く異なるもので、クックはそのことによって何らかの不利な状況が訪れてもそれを甘んじて受けるつもりだ。

去年、クックはEPIC(Electronic Privacy Information Center)が主催したフリースピーチによる演説で、ユーザデータを売ることで利益をとっている会社を、これらは全て顧客を騙している行為だと痛烈に批判した。それに対しある人はクックを偽善者と呼び、Appleもユーザデータを集めているではないかと指摘している。しかしクックはこう反駁する。Appleはその重きをユーザ側におくということを。まずやることはまずユーザにどんな情報が集められているのか、そしてこれらのデータがどのように利用されるかを知らせなければならないとした。Appleは明らかに他のシリコンバレーの同業者とは全く反対の行動をしようとしているが、クックCEOは違った道を行くことを選んだのだ。

他にクックがセキュリティとプライバシーにこだわっている立場を証明するものとして、チャーリー・ローズ(Charlie Rose)のトークショーに出演したときに、ちょうどiCloudでセレブの私生活の写真が暴露してしまって数週間後で、ローズがAppleはサーバにバックドアを仕掛けていたという噂についてクックに尋ねたところ、「彼らが私たちを人質にでもしない限りね」と答えた。その意味は明らかで、Appleは自らの製品のユーザのために権力と戦っており、先週のFBIの要求を拒絶したこともクックの一貫した立場を証明するものだ。

 

ユーザの信頼

“クック時代”のもう1つのキーは、ユーザとの信頼関係を築いていることだ。クックは強烈に、ユーザの信頼はAppleのUXの背後にある最大の価値であると信じている。それは2つのことで説明することができる。その2つとは、Mapsの失敗とApple Store(直営小売店)の混乱に対する処理の仕方だ。

2012年、AppleのMaps(地図アプリ)がリリースされたが、ユーザのクレームと怒りは増える一方だった。完成していない地図は非常に不正確で、性能も完全に劣るものだった。まずそこでクックは真っ先に表に出て謝罪した。その謝罪声明の中の最初と最後に、彼の重要なメッセージが込められている。

Appleは世界で一流の製品を作ろうとしており、お客様に最高のUXを提供するために努力しています。先週リリースしたAppleのMapsは、このコミットメントを実現できませんでした。このことに我々は非常に申し訳なく感じます。私たちは現在私たちの地図サービスをよりよくするために全力で改善しています。

私たちAppleがやっていること全ては、世界で最もいい製品を作るためです。私たちはそのことをユーザが私たちに期待していることも知っています。私たちは地図サービスが私たちの他の製品と同様超ハイレベルになるまで完璧を求める歩みを止めません。

報道によれば、このMapsアプリの失敗によって、iOSソフトウェアとMapsを担当していたスコット・フォーストール(Scott Forstall)上級副社長が解雇されたとされた。なぜなら彼はAppleのマップの失敗を公共の場で一切謝罪していないからだ。クックの視点で見れば、スコット・フォーストールのやり方はAppleのユーザのUXに対する信頼を脅かすものに映ったに違いない。Appleが長年苦労して積み上げてきたユーザとの信頼関係が、このたった1つのことで崩れ去ってしまうかもしれなかったのだ。そんなわけでクックは果断な決定をした(フォーストールの解雇と、ライバルのGoogle MapsのApp Storeへの復帰)。AppleのUXへの集中が、クックがAppleを率いるための原動力となっているのだ。

そしてもう一件の例は、Apple Storeで発生した混乱だ。2011年、Appleの小売店のチーフだったローエン・ジョンソンが辞職した。チーフが不在の間、人気のあるApple Storeは相変わらず客の流れが止まらなかったが、UXは日に日に低下していった。焦ったクックはジョン・ブライトをジョンソンの代わりにトップに据えたが、それが人事的な過ちであったことが後に証明された。ジョン・ブライトはUXではなく、Apple Storeの利益ばかりに着目したのだ。

1年も経たないうちに、クックはジョン・ブライトをクビにした。クックの果断な決定は、彼自身が自らの過ちを認め、できるだけ短時間内にそのミスを修正することに慣れていることを証明している。

同様に、クックがユーザのAppleの信頼を大事にする姿勢があったからこそ、FBIがあるユーザのiPhoneをアンロックして欲しいと頼んできたとしても、Appleはそれに対して”No”と言ったのだ。アメリカの国民の中にも、国家の安全を保証するためにAppleがFBIに協力するべきだという世論もあるというのにだ。

 

“クック時代”のAppleの社風は既に固まった!?

忠実なAppleファンは、これまでAppleのリーダが製品の先見性があるかどうかについてリーダーの資質を評価し、AppleのCEOにふさわしいかを判断してきた。

しかしクックの場合は、顧客に対する各種の公開状が、彼をAppleの現CEOたらしめている証拠の1つといえるだろう。なぜならそこにはクックのリーダーとしての力が示されているからだ。クックは、Appleが製品に集中することを持続するための最良の方法は、ユーザとの関係を強くすること以外にないと考えているのだ。そのうちの1つ、今回のFBIとの確執の中で出てきた声明のうちの一文が、そのことをよく表している。

「私たちはFBIの出発点は確かにいいと思います。しかし我々に自身の製品にバックドアを仕掛けろというのは非常に間違っています。私たちはこの要求が政府が保護すると約束している公民自由権を最終的に破壊してしまうことを危惧しています」

クックCEO自身がこの公開状を書いたことは、Appleがなぜこのテロ犯の持ち物とされるiPhone 5cのロック解除に協力しないのかということの説明に止まらず、彼がずっと守らなければならないものは政府が守らなければならないものと一緒で、それは公民自由権なのだということを表すためだ。Appleは現在でこそiPhoneのメーカーとして知られているが、恐らく20年後には個人情報を大量に扱う会社になっているだろう。クックは、会社がどう変化しようとも、Appleの文化と使命は変わらないということをはっきりとわかっている。いつかクックが人々の記憶に残り、一時代を築いた人物として記される日が来たら、彼はテック企業の使命を確立し、それをAppleのUXに溶け込ませた人物として記録されるだろう。

テック企業にとって、製品が永遠の主体のコンテンツであるのは間違いないが、しかしハードウェアもソフトウェアも人権の前では重要ではないということがクックによって改めて気づかされているのではないだろうか。

 

 

画蛇添足 One more thing…

若干提灯記事的なところがあるWeiPhoneの記事だが、ティム・クックの方針は実はAppleの創業者、スティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)の方針を受け継いでいるに過ぎないことは当ブログでも紹介したとおりだ。

AppleがiOS 8で暗号化技術を採用したのは、Appleの現CEO、ティム・クック(Tim Cook)が初めて唱えた方針によるものではない。実はあのスティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)がCEOだった時代から、デバイスのプライバシー保護の基調となる方針は決まっていたのだ。
AppleとFBIの確執問題のきっかけは、スティーブ・ジョブズの方針によるものだった - 小龍茶館

たまたま、スティーブ・ジョブズ時代にはそのことが表面化せず、大事件に発展しなかっただけなのかもしれない。

一企業が国の調査局の命令をはねつけるなど、まさに「公民の自由の権利」を守るとされているアメリカでしか成り立たないような事態かもしれない。この記事が書かれた中国であれば、命令状一枚で、場合によってはそんなものがなくても簡単に人がしょっぴかれ、企業が潰される。そんな国の中で、この件を機に人権やプライバシーの問題がメディアで取りざたされるのはなかなか面白い。

ただ、そんな環境のでも色々と批判を受けながら、BATと呼ばれるテック界の巨頭、バイドゥ(Baidu、百度)やアリババ(Alibaba、阿里巴巴)やテンセント(Tencent、腾讯)は優れたユーザ体験を提供し、ユーザの信頼を勝ち得てきている。

今後このApple vs FBIの確執がどのように発展し、そしてどのような結論に至るのかに注目だ。アメリカの国としての国民への信頼が揺らぎかねないからで、Appleとしてもユーザの信頼を失いかねないからだ。

記事は以上。

(記事情報元:WeiPhone

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