Appleも、年末のホリデーシーズンのチャンスを逃したいわけではなかった。しかし、どうやら様々な要因があり、やむなく春になってしまったようだ。
昨年、Appleは1年1更新というこれまでのリズムを崩し、秋に9.7インチのiPadを更新せず、その代わりに12.9インチのiPad Proをリリースした。そして結局1年半ほど経った先日、iPad Pro 9.7インチをリリース発表したため、Appleは昨年iPad 9.7インチiPad Proの更新が”間に合わなかった”のではないかとみられている。
先月、ブルームバーグがAppleのハードウェアテクノロジー担当ジョニー・スルージ(Johny Srouji)上級副社長(SVP、シニア・ヴァイス・プレジデント)にインタビューした際に、スルージ氏は12.9インチiPad Proが遅れてしまった理由を述べていた。
業界のメディアには既に2013年からAppleは巨大サイズディスプレイのiPadをリリースするという情報が出回っていたが、結局それが現実となったiPad Proのリリースは2015年秋まで待たなければならなかった。iPad Proの発売延期によってスルージ氏はA9Xチップの計画変更を余儀なくされた。先送りではなく、逆にこのチップをデバイス上に計画を前倒しして搭載するしかなかったのだった。
Appleはもともと、iPad ProにA8Xチップを搭載する予定だった。しかしこの製品の開発は予想以上に苦戦し、結果もともとの発売予定期間を過ぎてしまった。更にAppleはiPhone 6sにA9チップを載せたため、iPad ProにA8Xを搭載しても売れる自信がなかったのだ。なぜなら、A8Xチップを搭載することで「時代遅れ」「型落ち」なデバイスと捉えられてしまう可能性があるからだ。
iPad Proのような「Appleの新しい製品ライン」の場合、やはり確実に最新で最強のテクノロジーが搭載されていることが求められるのだ。
スルージ氏は最終的にiPad Proのリリースを無事に完了し、12月にAppleの管理職の中で更に昇級し、960万ドル(約10億8560万円)の制限株と、1090万ドル(約12億3260万円)の価値のある通常株をゲットしたのだった。
このことからも、iPadの更新リズムが昨年崩された原因がわかるというものだ。更に昨年12.9インチiPad Proがリリース発表されたのは9月頭のiPhone 6s/6s Plusと同時だったが、発売開始は11月中旬からになった。そのことから、製品の製造にも問題があったことがうかがえる。
これまでの報道では、ディスプレイの生産キャパシティが足りないことが主要な原因とされていたが、実はA9Xチップの生産キャパも非常に低かったことも原因だったようだ。なぜならAppleはこのチップの製造を100%TSMCに委託していたからだ。Chipworksの分析によれば、A9Xチップが採用しているのはTSMCの16nm FinFETプロセスを採用しているため面積も大きいが、TSMCのFinFETプロセスが初代のテクノロジーだったため、生産効率が非常に悪かったようだ。またチップの面積が大きいことはウェハーの面積が大きくなり、それによって製造難度とコストの上昇を招いたようだ。
面積が大きいことでの製造難度があがり、生産効率が悪くなるということで12.9インチ iPad Pro用のA9Xチップの供給がうまくいかないとなると、自然にAppleの重心は9.7インチiPad Proの開発に向いていく。なぜなら9.7インチ iPad Proに搭載されているA9Xチップは本体の大きさの制限もあってクロックが下げられており、面積が小さいためだ。そして12.9インチのiPad Proを使う人はかなり限られたニッチな層だが、9.7インチであればより広い消費者層に届けられるからだ。
Appleはもともとは昨年9月の段階でiPad Pro 12.9インチと9.7インチの2種類を同時にリリースしたかっただろう。なぜなら年末商戦という1年の販売が最も伸びる時期に乗せたかったはずだからだ。しかし結果は3月リリースということになり、3月はもともと売れ行きがよくない時期だ。ただ、去年秋の同時に12.9インチと9.7インチiPad Proがリリースされていたら、余計に12.9インチのiPad Proが売れなかったかもしれない(去年11月からiPad Pro 9.7インチが発表された3月までは、唯一のApple Pencilが使えるiPadとして12.9インチiPad Proを購入するしかなかったのだ)。
そしてAppleはiPad Pro 9.7インチのリリースと同時にiPad Air 2を値下げしたため、逆にiPad Air 2の方が売れるのではないかという皮肉な予想も出ている。
2種類のiPad Proのリリースが、既に製品ラインの寿命では下降線に入ってしまっているiPadやひいてはタブレットデバイスの復興に繋がるかどうか、それはAppleが発表する財務レポートでいずれ明らかになるだろう。
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(記事情報元:WeiPhone)