Appleはこれまで、無名の小さい企業を買収してその技術と人材を手に入れる、という手法を繰り返してきた。そして手に入れた技術は将来的に製品に活かされることになる。つまり、Appleが買収した会社を調べれば、Appleの製品の将来性や、将来の製品に搭載される機能が予測できるというわけだ。
Appleのティム・クック(Tim Cook)CEOは先日の業績発表で、過去1年でAppleは15社を買収し、より速くAppleの製品とサービスを充実させると発表していた。現在のところ、そのAppleが買収した15社のうち3社は明らかになっていないが、残りの12社は既に公式な発表はないにしても既に知られるところとなっている。以下にほぼ時系列順にご紹介しよう。
1. FoundationDB
2015年3月、Appleは40人しか社員がいないデータベースのベンチャー企業FoundationDBを買収した。FoundationDBはnoSQL型データベースで、ネットワークアプリデータベースの流行のスタイルで、これまでの伝統的なデータベースよりも安価だ。
AppleがFoundationDBを買収したのはデータベースサーバを販売するためではなく、Appleの内部で使用する目的のためのようだ。Appleは現在使用しているCassandra(オープンソース式のNoSQLデータベースシステム)から今後FoundationDBに乗り換えるようで、Appleは現在のCassandraを利用してiMessageやiTunesのパスワード管理、またその他のコンテンツサービスを提供している。TechCrunchによれば、FoundationDBは”ハイスピードでコストが安く、耐久性も高いデータベース”といいとこ取りだと評価しており、今回の買収でAppleはApp Store、iTunes Connect、iTunes等のサービスでサーバの品質を上げてUXを強化すると同時にコストダウンを計れるという一石二鳥を狙ったようだ。
2. LinX
今年の秋にリリースされるとみられているiPhone 7など、将来のiPhoneに搭載されるといわれているデュアルレンズのカメラ。この噂を耳にしている方々は、既にLinXの名前は聞いているだろう。Appleは2015年4月に、2000万ドル(現在のレートで約21億6000万円)でこのイスラエルのカメラレンズテクノロジーの会社を買収している。
LinXはモバイルデバイスに超小型の多眼レンズを開発していた専門の会社で、昨年の買収はiPhoneのレンズ構造に今後何らかの影響を産むのではないかと噂されている。それ以外にもLinXはタブレットやウルトラブック向けにもカメラを開発しており、AppleはiPadやMacBookなどにもこのテクノロジーを今後応用していくかもしれない。
LinXのカメラは他社の現状の市場にあるソリューションよりもサイズが”ミニ”であることが特徴で、薄型のモバイルデバイスでも一眼レフのような画質をもたらすことが可能になる。
3. Coherent Navigation
去年5月、Appleは高精度のGPSの専門企業Coherent Navigationを買収した。これは地図(Maps)アプリのGPS精度を上げるのに大いに役に立ちそうだ。同社の技術はこれまでの技術、つまり地球中間軌道のGPS衛星の技術と、新しい低軌道を飛ぶ音声とデータを提供する衛星を組み合わせることで、より高い精度と電波の完全性及び耐干渉を実現するという。なお、同社のGPSの精度はミリ単位だ。
2012年に自社の地図アプリの地位をライバルのグーグル(Google)に奪われてから、Appleの地図アプリはずっと評判が良くない。Appleは買収した会社や技術をどの製品やサービスに応用するかは明らかにしていないが、Coherent Navigationのテクノロジーが大幅にAppleの地図アプリのUXを高めるのは間違いないだろう。
ただし、Appleの地図アプリの欠点は、GPSの精度というより情報の正確性や質や量の問題だったり、あとは行き先案内のわかりにくさなど別の問題であると思うのだが。
4. Metaio
昨年5月、AppleはドイツのAR(拡張現実)の大手”Metaio”を買収している。Metaioが突然会社をたたんだことが物議を醸し、当時はグーグルに買収されたという噂もあったが、最終的にはMetaioを買収したのはAppleだということが発覚したのだった。
2003年に設立されたMetaioは主にARの技術の開発をしている会社で、現在最もホットなテクノロジーの分野だといえる。Metaio社の会社概要では、ビジュアルのインタラクティブなソリューションと現実世界とARをシームレスに繋げるソフトウェアの開発としており、ARをもとにしたソリューションとアプリのプラットフォームを提供し、デジタルコンテンツをカメラやビデオなどの撮影デバイスをシームレスに現実世界に繋げる環境にすることを目的としている。
簡単にいえば、例えばiPadのカメラで展示会で展示されている自動車を映すと、ユーザは画面内で違う色のバージョンをその場で見ることができたり、違うタイプの型番を見ることができたり、更に動画を使って空気力学デザインの実際の様子を見ることができたり、また上記画像のように内部の部品などの構造を見ることもできる、といった具合だ。
5. Mapsense
2015年9月、Appleはたった12人の社員しかいないMapsenseを買収した。その額は約2500万〜3000万ドルといわれている。
2013年に設立されたMapsenseは、主にモバイルデバイスの位置情報の分析や可視化や認識ツールの開発を行う会社だった。彼らが作り出したプラットフォームでは、位置情報をアップロードすることで、その位置の周辺のユーザがどんな商品を買っているかという消費習慣を調べることができる。
このMapsenseのテクノロジーは、Appleのマップアプリの位置情報や地図サービスのUXの改善に役立つと思われる。
6. VocalIQ
昨年10月、Appleはイギリスの自然言語処理を主に扱うAIソフトウェア企業VocalIQを買収した。
AppleのAIといえばやはりSiriだ。もちろんVocalIQも、そのテクノロジーをSiriの改善のために活かすために買収されたと考えるのが妥当だろう。VocalIQは自然言語処理テクノロジーに特化した会社で、コンピュータに人類が言葉で発した命令を理解させるというもので、現在のSiriを更にスマートにすることができるというわけだ。
言語処理以外にも、VocalIQの技術は更にAIの学習をもサポートするため、Siriの使用回数が多くなればなるほどSiriが鍛えられ精度もあがり使いやすくなっていくというわけだ。現在のSiriも学習をしているが、人力によるものが大きいという情報もある。
7. Perceptio
2015年10月、Appleはモバイルデバイスの画像識別テクノロジーのプロのPerceptioを買収した。Appleは上記のVocalIQを買収した後、4日以内に更にこのAI関連の会社を連続して買収している。
Perceptioはスマートフォンのために”ディープラーニング”テクノロジーを開発しており、この技術ではスマホが自分で画像を認識・識別することができるようになり、外部のクラウドデータベースに接続する必要がない。これはAppleの「ユーザデータの利用を最少化し、できるだけ多くのテクノロジーを端末側に置く」というポリシーに合致するものだ。
8. Faceshift
昨年11月、Appleはスイスのリアルタイムモーションキャプチャのベンチャー企業、Faceshiftを買収した。Faceshiftのテクノロジーはなんと昨年12月にリリースされたスターウォーズ(STAR WARS)エピソード7・フォースの覚醒に採用されている。この映画で、Faceshiftは非人類の知恵を持った生物のモーションキャプチャを担当していた。
Appleに買収される前は、Faceshiftはハイレベルのリアルタイムモーションキャプチャに利用するための非常に強力な顔の表情の認識ソフトウェアを開発しており、しかもそれを3Dセンサーと1つのカメラだけで実現できるため、専用のモーションキャプチャ用設備がいらないのも特徴だ。
Faceshiftを買収した後、Appleは自社の顔認識テクノロジーの補完を行うだろうと思われる。Appleは当然公式見解は発表していないものの、将来的にiPhoneやiPadに生体認証のうちの1つ、顔認識テクノロジーを導入する可能性もあると予測される。また、新しいUIデザインやFaceTimeのリアルタイム動画チャットでもそのテクノロジーは活かされる可能性がある。
もしかしたらApple TVのチャンネルでの独自の新しいコンテンツの制作にも使われるかもしれない。
9. LegbaCore
今年2月、AppleはLegbaCoreを買収した。買収というより、単に人材雇用レベルだったかもしれない。というのも、LegbaCoreにはXeno KovahとCorey Kellenbergの2人しかいなかったからだ。社名はこの2人の名前の一部を組み合わせたものだ。実はこの2人はセキュリティ研究者で、彼らはMac OSプラットフォームのウイルス駆除ソフトウェアを作ったこともあったことは、以前の記事にも書いた通り。
Appleがファームウェアセキュリティ会社の"LegbaCore"社を昨年2015年11月に買収していたことが、セキュリティ研究家のTrammell Hudson氏によって、12月に32C3会議でのプレゼンで明らかにされたことがわかった。LegbaCoreの会社設立の目的は、創業者のXeno Kovah氏によれば、「できるだけ安全なシステムの構築のお役に立つこと」だった。 ラッキーな二人!?Apple、ファームウェアセキュリティ会社のLegbaCoreを昨年11月に... - 小龍茶館 |
LegbaCoreはセキュリティコンサル会社ではあるが、具体的に持ち合わせているテクノロジーはなく、Appleはこの2人の経験や能力が同社の将来的なハードウェアやソフトウェアのOSやアプリレベルでのセキュリティに役に立つと考えたのだろう。
10. Emollient
今年1月、Appleはベンチャー企業のEmotientを買収した。同社はAIテクノロジーを使って人類の顔の表情を分析し、その人の感情や情緒を読み取るという技術を持っていた。
AppleはEmotient社のこのテクノロジーをどのように使うかについてはわかっていないが、予想されるのはこのテクノロジーを広告代理店等に提供することで、ユーザが広告を見た時の反応の判別に役立てるということだ。Emotientは、医療関係者も同社のテクノロジーをテストしていたという。というのも、言葉がしゃべれなかったり表情をうまく表せない患者の苦痛の表情を読み取ったりすることも可能になるからだという。また小売業者にとっても、消費者が店内で歩いている時の表情を読み取ることもできるためマーケティングに役立つという。
11. LearnSprout
今年1月、Appleは教育関係のデータ分析を主に行っている小企業のLearnSproutを買収した。サンフランシスコで起業されたLearnSproutは教師や学校行政法人向けにダッシュボードを製造している会社で、それによって学生に関するデータの分析ができるという。
教育業界はAppleが非常に重視している市場で、MacやiPadを授業と学校の管理に結びつけることはAppleが長らく取り組んでいる方針の1つだ。あまりニュースになっていないが、今年1月にAppleはデベロッパ向けのiOS 9.3ベータバージョンで、教育市場向けに全く新しい教育関連のアプリケーション、Apple Schoolをリリースしている。
12. Flyby Media
今年1月、AppleはARのベンチャー企業Flyby Mediaを買収した。
Flyby Mediaの会社概要によれば、同社はコンピュータのビジュアルテクノロジーを借りて、ユーザに本物の周囲のリアルワールドを感じてもらい、空間に対する理解を強化してもらうということを目的している。同社はコンシューマのモバイルソーシャルプラットフォームを開発し、リアルの物理世界とデジタルコンテンツを完全に結びつけ、V-Fusion技術で室内ナビゲーションや無人運転、ヘッドマウントディスプレイデバイスなど他分野に応用したいと考えていたようだ。
現在、Flyby MediaチームはAppleの秘密研究開発部門に入り、Appleのチームと協力してVRやARのヘッドマウントディスプレイデバイスのプロトタイプの開発をしているという。
無人運転技術にも応用可能ということで、今後AppleのEV、Apple Car開発のための極秘プロジェクト”Project Titan”に参加していく可能性もあるかもしれない。
記事は以上。
(記事情報元:WeiPhone)