Apple Watch Series 12の心拍精度を競合7機種と比較したAppleの研究で、測定ごとの誤差を示すRMSEとMAEでは全機種に対して統計的な優位が付きました。一方で運動全体の平均心拍では、HUAWEI(ファーウェイ、華為)WATCH 5との差が有意水準に届きませんでした。この記事では159比較の内訳を読み解いたうえで、比較機種の日本での価格と突き合わせて、買い替え判断に使える形に整理します。
画像はイメージです。
一見食い違う結果も、実はきれいに両立します。運動を終えた後の平均値が合っていることと、運動中の心拍の変化を正しく追えていることは、別の評価だからです。価格を並べると話はさらに立体的になります。精度で上位に立った機種が必ずしも高価とは限らず、安い機種が肉薄する項目もあれば、同額の機種との差が消える項目もあるからです。
胸部の基準器と159比較の全体像
Appleが2026年9月に公開した心拍精度研究の原文PDFによると、調査は同年7〜8月に実施され、登録された参加者は1460人、最終的な解析には1254人のデータが使われました。腕に装着する比較対象はApple Watch Series 12、Garmin Forerunner 970、Google Pixel Watch 4、HUAWEI WATCH 5、Samsung Galaxy Watch 8、WHOOP 5で、指輪型のOura Ring 5も加わります。PDFはこれらのブランドで世界のスマートウォッチ市場の約9割を占めると説明していて、市場調査会社Omdiaの2026年第2四半期の出荷データを引用しています。
基準器は、胸に装着して心臓の電気信号から心拍を測るPolar H10で、研究のPDFがウェアラブルの心拍精度評価で定番とする道具です。参加者は片方の手首にApple Watch、反対側に比較機種を装着し、Apple Watchが利き手側になる割合がおよそ半分になるよう、左右の割り当ても無作為化されています。比較対象には各社の最新モデルが使われ、ワークアウト種目ではワークアウトモードを、日常生活の測定では通常の装着状態を使い分ける、現場の使い方に寄せた設計です。
活動は、速度を変えた屋外ラン、屋内のインターバル走、屋外サイクリング、高強度インターバルトレーニング(HIIT)、筋力トレーニングの5種目で、原典PDFによるとそれぞれ15〜20分ずつ行われました。このほかに、休息・デスクワーク・食事の用意・歩行からなる日常生活の測定も約20分ずつ実施されています。調査は米国のカリフォルニア州とテキサス州、それにマレーシアの計5拠点で行われ、うち2拠点は外部の受託研究機関が運営していて、解析に使われたデータの59%はその2拠点で集まったものです。
参加者の内訳も読んでおく価値があります。原典PDFの結果セクションによると、解析に使われた1254人のうち、肌の色の濃さを表すフィッツパトリック分類でV〜VIに当たる人が20%、女性が35%、平均年齢は39±12歳、平均BMIは26±5でした。私が計算し直すと、20%は1254人中およそ250人に当たり、光学式センサーが苦手とされやすい濃い肌色の層を4分の1近く確保した設計です。光を皮膚に当てて反射を読む方式は肌色で光の吸収率が変わるため、この層を十分に含めたかどうかで、結果の当てはまり方が変わります。
原典PDFがまとめる活動と指標の組み合わせは全体で159件あり、99%信頼水準でApple Watchが優位だったものが139件、判定不能が18件、相手機種が優位だったものが2件でした。139÷159×100=87.4%なので、全体の約9割で差が確定している計算です。統計の水準を外して推定値の大小だけを見ると、159比較のうち155件でApple Watchが上でした。
平均心拍で差が消えた1項目の意味
研究のPDFは評価の指標を分けており、測定ごとのずれを評価するRMSEとMAEに加えて、セッション全体の平均心拍を別に扱っています。MAEは誤差の大きさをそのまま平均する指標で、RMSEはまれに出る大きな外れの影響をより強く受ける指標です。運動全体と日常生活全体では、RMSEとMAEの両方でApple Watchが全比較機種より統計的に高い精度を示しました。この「全比較機種」に、HUAWEI WATCH 5も入っています。
原典PDFによると、セッション平均心拍では、比較機種6機種と運動・日常生活の2区分を掛け合わせた12比較のうち、11比較でApple Watchが優位でした。残る1比較が、HUAWEI WATCH 5との運動全体です。ここでも数値上の誤差はApple Watchのほうが小さかったものの、統計的に差があると結論づける水準には届きませんでした。
この結果を「両機種の心拍精度は同じ」と読むのは早計です。有意差が出なかった場面は同等性の証明とは別の扱いになるうえ、測定ごとの誤差では全機種に差が付いているので、平均心拍のひとつの項目だけを取り上げて全体を語ると、RMSEとMAEで出た差が見えなくなります。
ここからは指標の違いを示すための仮の計算例で、研究のPDFの実測値ではありません。基準器が2回とも毎分120拍を示したとき、ある時計が100拍、140拍と記録したとします。このとき平均値は(100+140)÷2=120拍で基準器と完全に一致するのに、各測定の誤差はどちらも20拍になります。MAEは(20+20)÷2=20拍、RMSEも√((20²+20²)÷2)=20拍です。
平均値の誤差がゼロでも、測定途中の正確さは別枠で評価されます。運動が終わってから平均心拍を記録に残す人と、運動中に画面を見ながらその場でペースを調整する人とでは、同じ心拍データから重視すべき指標が変わります。その理由がここにあります。
比較7機種の日本価格と精度差の読み方
精度の話だけでは判断が付けにくいので、比較機種の日本での価格を、Apple公式ストアと各社の販売ページ・発表資料で2026年9月14日時点で確認し、並べ直してみました。表の価格はすべて税込で、各機種の最も安い構成の値段です。WHOOP 5はデバイス単体の価格を持たないサブスクリプション形式のため、表からは外してあります。
| 機種 | 日本での価格(税込) | 出典 |
|---|---|---|
| Apple Watch Series 12(42mm・GPSモデル) | 71,800円〜 | Apple公式ストア |
| Garmin Forerunner 970 | 121,800円 | ガーミン公式サイト |
| Google Pixel Watch 4(41mm・Wi-Fiモデル) | 52,800円〜 | Googleストア |
| Samsung Galaxy Watch 8(40mm・Bluetoothモデル) | 57,900円 | サムスン発表の通常価格 |
| HUAWEI WATCH 5(46mm・ブラック) | 71,280円〜 | 市場想定価格(ファーウェイ・ジャパン発表) |
| Oura Ring 5(Silver) | 65,800円〜 | Oura公式ストア |
まず目につくのはGarmin Forerunner 970の高さです。ガーミンの日本公式サイトの定価121,800円は、Apple公式のSeries 12(42mm・GPSモデル)71,800円と比べて121,800−71,800=50,000円高く、50,000÷71,800×100で約69.6%上になります。ただしForerunner 970は地形図の表示や長時間の駆動など心拍以外の機能を大きく盛った上級ランニングウォッチなので、この差をそのまま精度の対価と読むのは無理があります。
安い側では、Googleストアで52,800円からのPixel Watch 4(41mm・Wi-Fiモデル)が、Series 12より71,800−52,800=19,000円安いのに、運動全体と日常生活全体のRMSE・MAEでは統計的な差を付けられています。研究の中でPixel Watch 4がApple Watchを上回ったのは休息条件のRMSEとMAEの2比較だけで、その差は毎分0.5拍未満でした。日本円で2万円近い価格差に対して、心拍の精度差は数値の上ではこの程度です。この研究から読める対応関係です。
HUAWEI WATCH 5は、ファーウェイ・ジャパンが2025年5月27日に発表した市場想定価格で46mmブラックが71,280円でした。唯一差が消えた相手は、Series 12とほぼ同額の時計です。Galaxy Watch 8(40mm・Bluetoothモデル)はサムスンが国内で発表した通常価格で57,900円です。Oura Ring 5はOura公式ストアで65,800円からですが、アプリの機能の多くには月額料金が別途かかるため、価格だけで並べる意味は割り引いて見るのが妥当です。
買い替え判断に使える範囲
今回の研究は、比較対象の競合製品に対するSeries 12の心拍精度を判断する材料です。一方で従来のApple Watchとの直接比較は含まれておらず、旧モデルから何拍分改善したのか、買い替えでどれほどの差を体感できるのかは、この研究のPDFの範囲外です。Apple自身が公表した研究なので、独立した第三者による追試とは区別して読むのが安全です。
Appleの日本語の製品ページは「ウェアラブルデバイス史上、最も高い精度で心拍数チェック」とうたっていて、その脚注に「2026年6月時点で市販されていた販売台数の多いウェアラブルデバイスを対象に、Appleが2026年7月〜8月に実施した研究」と明記しています。広告の一文が、今回のPDFの中身を直接指しています。
心拍の誤差で出た結果を、睡眠評価や消費カロリーなど別の機能の精度にまで広げるのも難しい話です。研究のPDFによると、測定でApple Watchが使われたのは5秒ごとに1つずつ出される値で、ヘルスケアアプリに書き出される背景データは端末のメモリ管理のため30秒ごとにまとめられています。1時間あたりに換算すると5秒間隔で720サンプル、30秒間隔で120サンプルで、6倍の密度差があり、画面を見ながら使う場面では細かい方のデータが効きます。
小龍的にはこう思った
小龍的には、HUAWEI WATCH 5が差を保った場面のほうに目が行きました。セッションの平均心拍というひとつの項目で、Apple Watchとの統計的な差が消えたのは、原典PDFが比較した機種の中でこの機種だけです。測定ごとの誤差では全機種に差が付いているので「平均値で並んだ」と「測定で追いついた」は別の話ではあるものの、心拍というウェアラブルの看板機能でここまで迫ってきた相手がいるのは、数字としてはっきり見える事実です。
HUAWEIは中国が本拠地のウェアラブルメーカーで、今回の研究が世界市場の約9割と数えた7ブランドの一角に名を連ねています。日本での流通は小ぶりですが、中国本土ではAppleと人気を分け合う代表格であり、看板機能の心拍計測で差がここまで縮まっている事実は、日本の店頭の価格表示だけからは見えにくい構図です。精度の順位と価格の順位が一致しない市場では、心拍・駆動時間・対応アプリのどれを一番に見るかを、自分で決めるしかありません。
もうひとつ、Appleが自社に不利な2比較(Pixel Watch 4の休息条件)まで内訳ごと公表している点も評価できます。研究のPDFは159比較の枠組みと99%という信頼水準を示したうえでの公開なので、第三者が同じ方法で追試する扉も開いています。自社研究をここまで出すのは、精度を競う土俵そのものに自信があるという意思表示に小龍的には読めます。
画蛇添足 One more thing…
ちなみにこの研究、除外基準に「テック系メディアで働いている人」が入っています。結果を先に記者へ伝える経路を断つ措置でしょう。1460人のうち何人がここで引っかかったのかまでは、PDFのどこを探しても書いてありませんでした。
もうひとつ、Galaxy Watch 8の日常生活データだけは、タイムスタンプの付いた記録を端末側が出せなかったため、区間ごとの平均値と基準器を比べる形にせざるを得なかったと研究のMethodsに書かれています。全機種を同じ形式で測ったように見える研究にも、機種ごとのデータの出口の差がそのまま測り方の差として残る実務の話です。
関連記事:Apple Watch Series 12の発表前情報と心拍計測への期待。発表前の予測を扱った記事です。
記事は以上です。
