Appleは多くのサプライヤーと最低限の購買・発注数量を保証することで合意し、特別な価格や納期やラインや技術の独占・優先購買を実現することで他社との差別化を図りつつ利益を最大限に創出するという戦術をとってきましたが、どうやら今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、その戦術が裏目に出てしまったかもしれません。
Display Supply Chain Consultants(以下DSCC)からの新しいレポートによると、AppleはiPhoneの販売台数が少なすぎることが原因により、サプライヤーの1つであるサムスン(の子会社のサムスンディスプレイ)に多額の製品以外の支払いが発生したといいます。具体的には、Appleは最低発注量に満たないOLED(有機ELディスプレイ)をサムスンから購入するために、サムスンに対して9億5000万ドル(約1,020億円)を一括で支払ったというのです。
サムスンは今年第2四半期の決算ガイダンスで、2020年第2四半期の営業利益には「ディスプレイビジネスに関連する一時的な利益」が含まれるとしていますが、金額は明らかにされていませんでした。TheElecは先月、サムスンがAppleから約7億4,500万ドルを受け取ったと報告していましたが、本日のDSCCの報告では、匿名の情報源からの引用として、Appleは「9億5,000万ドル近く」の支払いをしたと書かれています。
「Appleの支払いにより、ディスプレイデバイスについて、営業損失のはずが営業利益に転じた可能性が高い」とDSCCのレポートは説明しています。確かにサムスンディスプレイの収益ガイダンスでは前年比で7%減少というものでしたが、営業利益のガイダンスは23%増加しました。これはアナリストの予想をはるかに上回っています。
あれ、どこかで聞いたニュースだな?と思った方もいらっしゃるかもしれません。実は2019年の第2四半期にも同様のことが起こっていて、Appleはサムスンに対し、合意された数量のOLEDディスプレイを購入せず、ペナルティに直面したのです。ただ当時のレポートでは、Appleはそのペナルティを現金で決済した可能性は低く、サムスンディスプレイに対して追加の注文を与えて、そこでのサムスンの利益が、支払われるべきペナルティと等しくなるようにした、ということでした。今年Appleからサムスンに支払われた9億5,000万ドルが将来の追加注文だったのか、或いはペナルティとして単にその金額が支払われたのかは不明です。
いずれにせよ、Appleは契約によるものとはいえ予定外の費用をサムスンに支払わざるを得なくなったということです(とはいえそんな契約を結んでいるということはそれも予算内であることは間違いないですが)。iPhoneのメイン部品の1つとはいえ、1000億円を超える出費はAppleにとっても小さくないものです。この金額の対象となる製品には、恐らく新型iPhone 12用の有機ELディスプレイも含まれると思われます。そう考えれば、iPhone 12も各サプライヤーに対しては当初の予想より少なく発注されていることが推測されます。
COVID-19は各方面に大きな悪影響をもたらしているといえるでしょう。ただ、中国は業界によりますがだいぶ復旧していると思います。欧米や日本の消費が落ち込む中、Appleは中国国内需要をしっかり抑えられるかで、今年の業績が決まりそうな気がします。
記事は以上です。
(記事情報元:DSCC)