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スイス時計業界の生ける伝説がApple Watchを評価、クォーツショック以来の危機となるか?

Jean-Claude Biver…この伝記的人物は、スイスの時計製造業の中で”魔術師”と呼ばれる人だ。

彼はスイスの時計製造業で伝説的な偉業を残しており、ある意味テクノロジー業界のスティーブ・ジョブズと似ているところがある。ジョブズはかつて、破産寸前で瀕死の状態だったApple(アップル)を救っただけではなく、同社をテクノロジー業界で世界一の企業にまで成長させた。
そしてかたやJean-Claude Biverは、彼の独特の力でスイスの老舗ブランドのBlancpain(ブランパン)を救い、そしてその後Hublot(ウブロ)に入って、当時大したことがなかったブランドを1年という短い時間でジュネーヴ大賞の「最良デザイン賞(時計界のオスカー賞)」を取得し、スイスの時計業界に留まらず世界の時計業界のトップにまで持ち上げたという偉業を成し遂げた。

このような生ける伝説のような人が、Appleが新しく発表したApple Watchをどのように見ているかは、自然と業界内外からも注目される話題となる。

Jean-Claude BiverのApple Watchの評価

Jean-Claude Biverによれば、Apple Watchへの評価はこうだ。

“Apple Watchはあまりに女性向けに偏っており、見たところ冷たい感じがし、品位につながる特徴が欠けている。見たところ完璧に見えるが、時によっては完璧すぎるのもセクシーじゃないんだよ”
“一目で、学生の実習作品レベルだね”
しかし彼は同時に、Apple Watchはスイス時計業界にまた別の危機をもたらすと感じているという。

Apple Watchの登場はスイス時計業界の第二の危機になる?

スイスの時計業界はここ数年、ブームを迎えている。数十万円、またはそれ以上の桁数の時計でも、非常によく売れている。スイスの時計は基本的に輸出に頼っており、昨年の輸出高は218億スイスフラン、約180億ユーロ、日本円に換算すると約2兆5000億円にも達する。

しかし市場予測によれば、Apple Watchが販売されれば年間3,000万個は売れると予想されており、これはスイス時計業界が70年代に迎えた危機依頼の非常に大きい脅威となっている。20世紀の70年代、スイスの時計業界は日本から起こった廉価なクォーツ時計の大ブームによる津波のような被害を受け(クォーツ・ショック)、ほぼ瀕死となったが、その中から不死鳥のように蘇った歴史がある。

Apple Watchが販売される前は、ある人はApple WatchはiPhoneの付属品に過ぎないとか、ある人はラグジュアリーウォッチとなってスイス時計業界と真っ向勝負すると予測していた。意外だったのは、Apple WatchはiPhoneの付属品だけではなく、外観をかなりファッショナブルにデザインし、18kゴールドモデルまで用意し、価格はスイスの高級時計ほどではないものの、価格帯的にはファッショナブルでラグジュアリーで、価格もそれなりに高いものとなっていた。Appleはこれまで培った成熟した技術と企業規模を使い、スマートウォッチをスイスの時計業界に対する有力な競争相手として成立させようとしているのは明らかだ。

スイス時計業界全体としてはApple Watchの登場にも楽観的

しかしスイスの時計業界全体としてはApple Watchに対してはあまり緊張感を持っていないようだ。Louis Erardの総裁、Alan Spinelloは、”デザインの点からいえば、これは腕時計とはいえない。腕の上につけるiPhoneどまりだね。旅行をするときにはつけてもいいけど、パーティーに参加するときには絶対これをつけていきたいとは思わないはずだ”と評価している。

世界最大の時計製造業者となっているSwatch(スウォッチ)の創業者で総裁のNicolas G. Hayek(ニコラス・ハイエック)もスイス時計業者の救世主と呼ばれている程、Jean-Claude Biverと並び称される人物だが、彼は今回のApple Watchが時計業界全体にとって新しいチャンスになるのではないかと捉えているようだ。”数百万人が自分の腕の上に何をつけようかと考えるようになる。これは時計業界にとって新しいチャンスを作ってくれたということで、更に多くの腕時計が売れるようになるだろう”

冒頭のJean-Claude Biverはといえば、”最高のスイスの腕時計は、独特の個性を持っている。が、Apple Watchにはそれがないね”と酷評している。彼は更にスイスの最高級腕時計の個性を米国のスーパーモデルを引き合いに出して比較している。”まるでシンディ・クロフォードの妊娠線のように、あれが彼女の特徴の一部分となり、それがいわゆる公認のアイコンのようなものなのだ。それを見れば、彼女が誰かわかるっていうね。”

スイス時計業界もうかうかしていられない、優秀な人材がAppleに流出中

注目すべきは、今年の7月、Jean-Claude Biverはインタビューで、AppleがTag Heuer(タグ・ホイヤー)の営業のトップを引き抜いたことをメディアに暴露した人物であることだ。Apple Watchの初代モデルはもしかしたらスイスの時計業界を直撃するような衝撃にはならないかもしれないが、Appleがこれからもスイス時計業界から人材を引き抜き、Apple社内に”スイス時計業界ドリームチーム”を結成したとしたら。。もしかしたら将来的にスナイパー級の素晴らしいApple Watchができてしまうかもしれない。

スイス時計業界もうかうかしていられないだろう。まずは人材の流出に気を遣うべきだ。

記事は以上。

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