5年前の2011年、Appleを創ったスティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)はこの世を去り、現在のCEO、ティム・クック(Tim Cook)がその後を継いだ(実際はジョブズは体調が悪くなってからCEOの地位をクックに”禅譲”した)。クックがCEOになってからというもの、新しい製品ニュースが出るたびに、メディアでは「もしジョブズがまだ生きていたら、こんなことにはなっていなかった」という悪い方面での評価が書かれることがあり、このことはクックを大きく傷つけたかもしれない。
しかし実際は、クックがジョブズの後を継いでから、Appleは一歩ずつ確実に強くなっており、その利潤と企業の活気は誰も追いつけない。FastCompanyがティム・クックがスティーブ・ジョブズがいないAppleにもたらした9つの変化をまとめているのでご紹介する。
1. Apple自身でテクノロジーの運命を左右できるようになった
クックがAppleの舵取りを引き継いだ後、Appleは更に独立の色を強め、これまで他社に頼らないと生き残っていけなかったところを、自らチップやセンサーをデザインできるようにした。そのことによって、AppleはハードウェアやソフトウェアのUXと設計上で高度な統一を図ることができ、他人の顔色をうかがう必要はなくなった。そしてこのことはAppleの将来にとって極めて重要なことだ。
2. Appleはサービスでもハードウェアと同じくらい素晴らしい会社になった
近年、Appleは多くのサービスを開花させている。iCloud、Apple Pay、AppleCare、Apple MusicとApp Storeにおける営業収入は同社の全体の12%を占め、同部門の成長率はハードウェア部門を抜きそうな勢いだ。これからクック率いるAppleはユーザのためにますますサービスの強化を図っていくだろう。
3. エンタープライズマーケットに食い込んだ
以前、Appleはずっとコンシューマ市場での覇者だった。しかしエンタープライズ(企業)マーケットにはそれほど踏み込むことができていなかった。しかしIBMと提携を結んだ後、彼らはエンタープライズ市場との関係の氷解の旅が始まった。
iPad Proの出現によってAppleは新しい突破口を見つけ、同社のモバイル製品はもはや人々の手のひらの上のおもちゃではなく、次世代のエンタープライズ級のノートパソコンに置き換わるレベルになったのだ。
4. Appleはファッションブランドのようになった
精巧な工業デザインがAppleを王者たらしめているが、クックはそこを更に強化した。特にApple Watchでは、ファッション業界の手法を用いて、限定版のウォッチバンドをつくるなどをした。そして直営小売店のApple Storeの設計や運営上でもファッションの要素を採り入れていて、Appleはバーバリー(BURBERRY)の元CEOのアンジェラ・アーレンツ(Angela Ahrendts)を引き抜いてトップに据えている。
そのアンジェラ・アーレンツのおかげか、Apple製品の周辺グッズも冷たいテック企業風味を取り去り、ファッション的な要素が増してきている。
5. App Storeが営業プラットフォームに
膨大な数のユーザを抱えるApp Storeはその客流に困ることはない。
これまでの有料アプリやアプリ内課金での利益収入以外にも、Appleは積極的に自社のApp Storeを更新・改善し、活気溢れる様子を演出、営業プラットフォームに変身させ、Appleに将来更に多くの収入をもたらすだろう。
6. これまで高慢だったAppleがパブリックベータ版をリリース
これまで一貫して高慢な姿勢を貫いていたAppleも、今は物事の道理がわかってきたようだ。扉を閉ざしたままでは完璧には近づけないということだ。というわけでiOS 9やiOS 10ではAppleはパブリックベータ版をリリースしている。
Appleはユーザの声を真面目に聞くようになり、ユーザがどのような嗜好があるかを記録し、それに従って修正を行う会社になったということだ。但しOSのオープンソース化についてはまだ道は遠そうだ。
7. 守りを固めず、大胆に新しい領域に挑戦
今のAppleは守りに入らず、単なるコンピュータ会社の領域を越えている。クックは更に業務範囲を広げようとしているのだ。目下電気自動車(EV)、ヘルスケア、テレビドラマの制作など、様々な分野でテストを続けている。
もちろんこれらの新しい領域では一気に大きくなることはできないかもしれないが、クックはそこはあまり気にしていないようだ。なぜなら彼らの目標は、ユーザの日常生活に関わる全てのことに入っていくことだからだ。
8. Appleの富は国家レベルに匹敵するようになり、経済基盤も強固に
現在、Appleの手中にあるキャッシュフローは2330億ドル(約23兆6,133億円)にのぼり、これは世界でも一国の国家予算に匹敵する(ちなみに2014年の世界ランキングの歳入と比較しても、19位のベルギーの下、20位のサウジアラビアの上くらいだ)。そして過去の2年強の間に、Appleは1170億ドル(約11兆8,573億円)も使って株の買い戻しを行っている。この金融手段はクックの十八番で、それはAppleの実力を更に高め、同社の王位を長く保つための政策でもある。
9. Appleは積極的に社会的な責任を負うようになった
ジョブズの時代はあまりチャリティなど莫大な利益を社会に還元することについては積極的ではなかったが、クックは社会におけるAppleの企業責任をより重く受け止めているようだ。クック自身がまず給与など私財をほぼチャリティに回しているし、ALSアイスバケツチャレンジにも参加している。ティム・クック自身がLGBTグループの一員として、マイノリティや違った属性の人達の声を重要だと考えている。更にクックはユーザのプライバシー保護を最優先し、そのことで政府FBIと仇敵になってしまうなどのリスクを冒すことも辞さない姿勢を示した。
環境保護の面でもクックが率いるアップルは業界の最前線を走っている。
画蛇添足 One more thing…
スティーブ・ジョブズはAppleの創業者であり、また一旦Appleから追い出されて復帰した時には同社は瀕死の状態だった。その両方のシチュエーションでは突破する力、爆発力、ほとばしるセンス、時代を先取りし強引に実現する力、必要なものだけにリソースを集中して余計なものはカットするという集中力、そしてアウトローになってもでかい相手を倒すというような”海賊精神”が必要であった。
ジョブズは正にそれらの全てを持ち合わせていて、爆発的な起業後の成功とどん底からの復活というシチュエーションにはトップの役割としてはピッタリだったのだろう。
しかしジョブズが追い出される前には会社も一定の水準に達して、結局極端なことをやるジョブズは自ら呼んできたCEO達とそりが合わず、追い出されてしまう。また晩年の頃は既にAppleも世界記録的なヒット商品をいくつも抱え、海賊精神で破壊しようとしていたライバルよりも断然大きくなり、世界一の企業価値を持つ”ビッグブラザー”になっていた。
そんな状態のAppleには、ジョブズのような経営者よりも、クックのような経営者の方が向いているのかもしれない。確かにジョブズの時代に比べて、クックの時代のAppleは一般的な言い方では”つまらない”会社になってしまった。製品の種類も増え、バリエーションも増え、ジョブズの時代よりも複雑になってしまった。
ただ、安定した状態を維持するには、より多くの人に受け入れられる製品のバリエーションを持つことや、これまでの海賊精神は捨て、”よりよい””社会のために尽くす”というイメージを打ち出す必要があったのだろう。
ジョブズはクックにCEOの地位を譲る時に、「俺の真似はするな、自分のやり方でやれ」と言ったそうだ。クックは正に、それを実行していると言えるだろう。彼なりの、方法で。
記事は以上。
(記事情報元:FastCompany)