2026年8月31日は、【ティム・クック】がAppleのCEOとして過ごす最後の1日でした。クック氏は社員へ別れのメモを送り、Xにも短いメッセージを投稿。そしてまさに同じ日、Bloombergがフィル・シラー氏がApp Storeと発表イベントの統括から退くことを報じました。9月1日、Appleは経営トップだけでなく、看板部門の顔ぶれまで一気に入れ替えて新しい時代に入ります。

最後のメモ。「私の成功は、すべてあなたたちのおかげ」
クック氏が社員に送ったメモは、15年間の感謝に貫かれたものでした。「私の成功について語られることが何であれ、それはすべて、あなたたちのおかげです」と述べ、Appleの強さの源泉を製品ではなく「文化はすべてに勝る」という言葉で表現。「世界を、見つけたときより良い場所にして残す」という会社の目的を改めて確認する内容だったと伝えられています(9to5Macがメモ全文を掲載)。
後任のジョン・ターナス氏については「聡明で、素晴らしく、有能」と評し、「彼のリーダーシップにこれ以上ないほど興奮している」と全面的な信任を表明。Xへの投稿はこう締められています。「明日、私の肩書きは変わります。しかし、Appleコミュニティへの愛は決して変わりません」。退任後は会長(エグゼクティブ・チェアマン)として会社に残りつつ、ハイキングや国立公園巡りといった個人の時間も楽しむ意向のようです。
【CEO就任からちょうど15年の花道】ティム・クックの送別会が社内で開かれた。「中国を作った男」の退場を、中国から見送る
同じ日のもうひとつの人事。シラー氏、App Storeとイベントを降りる
クック氏の花道の陰でひっそりと、しかし実務的にはかなり大きな発表がありました。フィル・シラー氏(66)が、App Storeの統括と製品発表イベントの統括という2つの役割から退くのです(MacRumorsが伝えたBloombergの報道)。Apple Fellowの肩書きは維持し、会社には残ります。
シラー氏といえば、ジョブズ復帰以来のマーケティング責任者であり、2020年にフェローへ退いた後も、App Storeと発表イベントだけは手放さずに握り続けてきた人物。報道によれば、EUのデジタル市場法(DMA)対応、Epic Gamesとの訴訟、ブラジルや日本からの規制要求と続く消耗戦のさなか、週80時間近く働いていたそうです。66歳でこの働き方ですから、「引退へのもう一歩」という見立てには説得力があります。
後任は2系統に分かれます。App Storeはサービス部門トップのエディ・キュー氏が統括し、日常運営は古参のカーソン・オリバー氏が担当。発表イベントは、シラー氏の下でイベントを支えてきたノラ・ワインスタイン氏が率い、広報担当VPの下に入ります。
9月1日時点の、新しいAppleの顔ぶれ
ここで、この夏の一連の人事を1つの表に整理しておきます。
| 役割 | 8月31日まで | 9月1日から |
|---|---|---|
| CEO | ティム・クック | ジョン・ターナス |
| 会長(エグゼクティブ・チェアマン) | — | ティム・クック |
| App Storeの統括 | フィル・シラー | エディ・キュー(実務はカーソン・オリバー氏) |
| 発表イベントの統括 | フィル・シラー | ノラ・ワインスタイン(広報部門の下) |
注目はエディ・キュー氏の存在感です。Apple TV+、Apple Music、iCloud、そしてGoogleとの検索契約。Appleのサービス収益の柱を握ってきた同氏が、年間1兆円を軽く超える手数料を生むApp Storeまで手中にしました。ターナスCEOが製品を、キュー氏がサービスと金脈を、会長のクック氏が政治を。新体制の権力地図は、この3人を頂点に描かれることになります。
【9月1日にCEO交代】ティム・クック、Apple最後の数週間。「良識ある人間だったと言われたい」— 後任はジョン・ターナス
ジョブズ時代の人たちが、まだいる!
そしてこの表を眺めていて、いちファンとして少しほっとしたことがあります。クックの15年を語るなら、その前にバトンを持っていた人を忘れるわけにはいきません。共同創業者、我らがスティーブ・ジョブズです。ガレージで興した会社を一度追われ、倒産寸前だった1997年に復帰。そこからほぼゼロと言っていい状態を、時価総額3,500億ドルの世界一の会社に育て上げ、2011年8月にクック氏へCEOの座を渡し、その6週間後に世を去りました。
クック氏は、そのジョブズ時代からオペレーション担当のSVP(上級副社長)として会社を支えてきた人です。エディ・キュー氏も、ジョブズの下でiTunes StoreやApp Storeを立ち上げてきた古参の重役。つまり今回の交代劇の後も、会長にクック、サービスの帝国にキューと、ジョブズの息のかかった人たちがまだ経営の中枢に残っているわけです。ジョブズの手触りを知る人がいるAppleと、そうでないApple。ファンにとってこの2つはまったく別の会社で、だからこの布陣は、それだけでありがたい。フィル・シラー氏が第一線を退くのは寂しいですが、こればかりはしかたがありません。
中国から見る「クック後」の初日
ここからは中国在住者としての話です。振り返れば、ジョブズの時代、中国は完全に軽視されていました。生産こそ既に中国に移っていたものの、市場としては後回しで、どちらかというと毛嫌いすらされていた印象です。実際、ジョブズは在任中、一度も公式に中国の地を踏んでいません。それがクックの時代になると一転、ほぼ毎年訪中する最重視ぶり。トップが替わると会社の方針がここまで大きく変わるという、分かりやすい一例だと思います。そして生産も販売も、現在も今後も、Appleが中国抜きには生きていけないのは間違いありません。
先日の送別会の記事で、私はクック氏の会長職を「実質は対中・対米の外交大臣」と書きました。今回のシラー氏の一件は、その読みを補強する材料だと思っています。というのも、規制当局との消耗戦を最前線で戦ってきたシラー氏が退き、その重荷がキュー氏らに分散される一方で、各国政府との関係といういちばん重い対外案件だけは、クック氏が会長として抱え続ける形が、これではっきりしたからです。
製品はターナス、店はキュー、政治はクック。役割分担としてはきれいですが、裏を返せば、北京とワシントンに顔が利く人材が、いまだにクック氏しかいないということでもあります。新体制の初舞台は9月9日の発表イベント。壇上に立つ新しい顔ぶれと、壇上にいない人がどこで働いているのか。両方を見ていくつもりです。そして会長になったクック氏が、Appleの外務大臣としてどんな手腕を発揮するのか。ここは素直に見ものです。
【9月9日で確定】Appleが発表イベントを正式告知。日本時間は10日午前2時、中華圏のタグラインは「新章」で折りたたみを暗示か
最後に、個人的な感謝を
ここまで書いてきて、最後にどうしても記しておきたいことがあります。私はAppleに、いちユーザーとしてだけでなく、商売人として大変お世話になってきました。このブログがまさにそうです。日本では発売されなかった初代iPhone(2G)の頃から、脱獄(ジェイルブレイク)やSIMロック解除といった、当時としては相当マニアックな話題を扱い続けてきました。おかげでブログは月間100万PVに達し、私は最初はブログアフィリエイトで起業できました。
SoftBankのiPhoneのSIMロック解除では、日本一、実質的には世界一の台数を受け付けて解除した実績も作らせてもらいました。それが今の自分のビジネスにも繋がっています。
Appleがなければ、そしてあの時代からAppleを支え続けたティム・クックがいなければ、成し得なかったことばかりです。というわけで、15年間ありがとうございました。肩書きが変わっても、こちらのAppleへの、そしてクック氏への感謝も変わりません。
記事は以上です。
(記事情報元:MacRumors、9to5Mac。シラー氏の退任は本文中のリンク先が伝えたBloombergの報道)
※記事中の画像はイメージです。

