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新型Mac Pro 2019モデルはこれまでのAppleの秀逸なデザインのリミックス版だ

Appleは今週初めに、サンノゼで毎年恒例の世界開発者会議(WWDC)を開催しました。そしてその基調講演では、多数の開発者向けソフトウェア発表と共に新しいハードウェアが発表されています。それは2019年モデルのMac ProとPro Display XDRで、WWDC2019基調講演の中でもひときわ注目を集めました。ソフトウェア開発者兼デザイナーのArun Venkatesan氏が、2019年内に発売予定の新型Mac ProとPro Display XDRのスマートサーマルマネジメント機能やデザインなどについて、非常に詳細にわかりやすく紹介していて記事としてとても秀逸です。

この記事ではArun Venkatesan氏のブログ記事を翻訳・意訳しつつ紹介したいと思います。

このMac Proは、Macデスクトップのラインナップでトップ(フラッグシップ)の座を占めています。その前身である、2013年に販売された第2世代または「ゴミ箱」型Mac Proは、外観は美しくなりましたが第1世代とは根本的に異なるデザインとなっていて、そしてほぼそのデザインは失敗したといえます。その設計は、Appleが何十年も売っていたモジュール式のアップグレード可能なタワー設計を放棄し、代わりに洗練されたコンパクトな、しかし最終的には限られたパッケージが導入されたのです。

左が第1世代、右が第2世代。左の第1世代は比べてみると非常に巨大に見えますね。

そのため、2017年に、AppleはMac Proを使用するようなプロユーザー達に対して謝罪し、完全に新しく再設計された次世代の「モジュラー型Mac Pro」に取り組んでいることを認めたのです。

そしてその「モジュラー型Mac Pro」が、今週のWWDCの基調講演で私達がちらっと見たものです。それは前の世代が試みたような根本的な変化がもたらされたのではなく、これまでのいくつものよいデザインを取り込んだ「リミックス版」ともいえるようなものでした。。実際に、このMac Pro 2019モデルは、Appleの過去の製品の多くから大きな影響を受けているのです。

筐体設計:ハウジング(カバー)とフレーム

外側から見ると、Mac Proの外観設計は、上に突き出た大きなステンレス製のハンドルと、ハウジングの下部から突き出ている足によって支配されているように見えます。それほど、ハンドルと足が目立つ設計となっています。

この筐体は、大きく分けてハウジング(カバー)とフレームの2つの部品によって構成されています。そしてハウジングの上部にある大きな円形のラッチ部分を持ち上げて回転することで、ハウジングをフレームから外すことが可能になっています。このハウジングを取り外すことで、フレームに取り付けられた内部の各種コンポーネントに簡単にアクセスできます。その上、Mac Pro 2019モデルの内部は複数の個々のパネルに分かれていて、取り外すことができるようになっています。

つまり、Mac Proのハウジングを取り外すことで、360度から内部に簡単にアクセスできるようになっているというわけです。

この取り外し可能なハウジングは、CNCフライス加工・ビーズブラスト加工・陽極酸化処理を施したアルミニウム製です。非常に強く、フレームに固定されていないときは自立することさえできます。それでも、その前面と背面は気流を可能にするのに十分なほど多孔質、つまり穴だらけなのです。それについては後で詳しく説明します。

そしてハウジングを取り外した内部には、すべての内部部品が丁寧に研磨されたステンレススチール製のフレームに直接取り付けられています。上記で指摘したMac Pro 2019モデルの外観としてはともかく目につくデザインとなっている、「ハンドル」と「足」は、実際には筐体から突き出ている、フレームの構造部品だったのです。

そしてAppleがすべての内部コンポーネントをフレームにマウントし、それらを取り外し可能な一体型のハウジングで囲むという構造を使ったのは、今回が初めてではありません。

実はこの構造は、2000年から2001年にかけて販売された、実に短命だったPower Mac G4 Cubeに遡ることができます。このCubeの立方体の内部には、上下逆さにして折りたたみ式ハンドルを使ってフレームを引き出すことによって、アクセスできるようになっていました。今回のMac Pro 2019モデルでは、逆さにしなくてもいいところが更にスマートになっているといえるでしょう。もっとも、大きさ的にも天地を逆にするのには向いていないという説もありますが。。

筐体内部の設計:サーマルゾーンによる熱設計

新しいMac Proの熱設計は、以前の製品、2003年に発売されたPower Mac G5タワーの構造を再利用したものです。このPower Mac G5もまた、今回のMac Pro 2019モデルと同様「チーズおろし金(Cheese Grader)」と呼ばれていたのを覚えている方も多いでしょう。

Power Mac G5は、内部の壁とプラスチック製のエアディフレクターを利用して、4つのサーマルゾーン(熱地帯)に分割されています。各ゾーンでは、低速ファンは前面からコンポーネントを介して、またヒートシンクから空気を取り入れます。その後、熱が背面から排出されます。

この構造は、当時基本的に内部のサーマルゾーンは1つというタワー型デスクトップコンピュータの設計と比較すると、殆ど革命的なデザインだったのです。

1つの大きなスペースを小さなゾーンに小分けすることで、それぞれのゾーンの温度を個別に監視して冷却することができます。担当している特定のコンポーネントが実際に加熱されたことが検出された場合にのみ、そのゾーンのファンがスピンアップします。その結果、より静かで効率的な冷却が実現していたのです。

新しいMac Pro 2019モデルでは、Appleは内部を2つの熱ゾーンに分割するために、Apple自身が「Sea Wall(海壁)」と呼ぶ金属プレートによる壁と、マザーボードそのものによって、横からみた場合縦に2つに分かれるように設計されています。そしてマザーボードの正面にあるより広いスペースには、3つの大型インペラーファンが、前面から食う気を取り込み、CPUヒートシンクと拡張カードの上を通って、そして背面から熱を排出する仕組みとなっています。

そして上記とは反対側では、送風機のような設計のファンが全面からの冷たい空気をメモリ・SSD、そして電源へと届けた後に背面から排出するようになっています。

Power Mac G5タワーではAppleは横向きにサーマルゾーンを区切ったのですが、Mac Pro 2019モデルでは縦向きにサーマルゾーンを区切ったことになります。

Pro Display XDRのディスプレイスタンド

AppleがWWDC2019の基調講演でMac Proと共に発表した、Pro向けディスプレイ「Pro Display XDR」。そしてこのディスプレイは、スタンドだけでも999ドルするという代物になっています。さてそのくらいの価値があるかどうか、ですが、実際には素晴らしいエンジニアリングによって生み出されています。スタンドは外から見るとシンプルに見えますが、内側の連結部分が、ディスプレイを平行な角度を保ちながら垂直方向に楽に再配置することを可能にしています。

これまで通常のモニターアームを使用している方は、たわみやすいアームを使用した経験があるか、アームがたるまないように止めネジを調整する必要があったのではないでしょうか。丈夫で硬く、かつ動きやすいアームを作ることは相反するものを実現することになり、技術的に大きな課題です。

しかし実はPro Display XDRは、このような機能を備えた最初のApple製品ではありません。2002年の最初のフラットスクリーンiMacであったiMac G4は、半球状の本体をフラットパネルに接続するアームを搭載してデビューしました。そのアームは非常に丈夫だったので、Appleはそのアーム部分を、コンピュータを実際に持って動かすためのハンドルとして使うことを推奨していたほどでした。今回のPro Display XDRのスタンドにも、このiMac G4の時の技術が応用されています。というわけで、999ドルもの値段になってしまった。。ということなのでしょうね。

ハウジングのユニボディ格子

今回のWWDC2019で発表されたハードウェアの中出、最も偏った意見を浴びせられているビジュアルモチーフは、やはりMac Proの前面と背面、そしてPro Display XDRの背面にデザインされた新しい「3次元格子グリル」ではないでしょうか。多くの人はこの設計に見苦しさを感じるといいます。集合体恐怖症=トライポフォビアの人は、一瞬だけ見ることすら避けたいのではないでしょうか。

実はこの格子グリル(仔牛のグリルではありません)は、単なる芸術というわけではなく、完全に機能によって支配されていることをご存じでしょうか。それはAppleが2008年にユニボディのMacBook AirとMacBook Proのパームレストで解決しなければならなかった同様の問題の解決方法と同じなのです。どのようにして構造に妥協することなく分厚いアルミニウム板の大部分を切り取ることができたのでしょうか?

「このパームレストは製品全体の背骨のようなものです。通常、あなただったら、パームレストに対して、構造的な完全性を保つという意味では完全に絶望的な、非常に大きな穴を開けてしまうでしょう。私たちが発見したのは、1つの大きな穴ではなく、たくさんの小さな穴を加工しても、その構造はほとんど無傷のままであるということだったのです」

– ジョナサン・アイブ

というわけで、ジョニー・アイブは以前のMacBookではやっていた、ワンピースのキーボード部品用に大きな穴を開けるのをやめて、アルミユニボディでは各キー毎に1つ1つ穴を開けることで、キーの間に残ったフレーム(リブ)がパームレストの構造の完全性を満たしたのです。※ちなみにこの方法は加工のために非常に手間もコストもかかるので、普通の会社が真似できるものではありません。

そしてAppleはMac Pro 2019モデルのハウジングの前後の板部分にも、格子グリル=ラティスグリルにもアルミユニボディのMacBookと同様の発想法で新しいアプローチをとりました。六角形のモザイク模様となった球の配列が、アルミニウムの厚い板の一方の側から刻まれ、そしてもう1つのオフセット配列がもう一方の側から刻まれています(具体的には以下の動画が参考になります)。

この2つの間の穴構造の隙間が重なり合うことで、空気の流れを作り出すことができます。このプロセスによって本来の1枚の分厚い板材の50%以上を除去することができ、強い構造を残しながら、空気をよく通すことができるという相反するテーマを実現できているのです。

そしてこのソリューション形式は機能要件を満たしているだけではなく、デザインの優雅ささえ備えています。

この構造の実現までには、空気の流れと強度を最適化しながら、切り込みの深さ、球の重なり、球の直径と間隔の比など、さまざまな変数を試してみる必要があったと思われます。しかし今回の最終的な仕様に達するまでには、一体どれくらいの反復作業が必要だったのでしょうか。想像するだけでも気が遠くなるような話です。

布巻きコード

Appleは長い間、ゴムのようなポリマーでコードを被覆した状態でコンピュータを出荷してきました。しかし今回のMac ProとPro Display XDRでは、Appleは布で包まれた電源コードとThunderbolt 3コードを出荷しています。恐らく、耐久性がその理由だと考えられます。

しかし、Appleが布で巻いたコードを製品に添付するのは実は初めてではありません。Apple初めて布で巻いたコードを使用したのは、去年2018年のHomePodです。つまり、ここにも過去の製品の技術が応用されているのです。

シルバーとブラックをテーマにしたマウス・トラックパッド・キーボード(周辺機器)

ここ10年以上、マウス・トラックパッド・キーボードといったAppleのコンピュータ用の周辺機器は、銀色の陽極酸化アルミニウムの或いは白いプラスチックの色によって白いデザインで統一されていました。

そしてAppleが2017年末にあのiMac Proをリリースしたとき、今度はiMac Proのスペースグレイとブラックのテーマに合わせて、スペースグレイの周辺機器の新しいセットがリリースされました。

マジックマウス、マジックトラックパッド、マジックキーボードの通常銀色の陽極酸化処理されたアルミニウムの表面は、スペースグレイに着色され、プラスチックの白い表面は黒色に着色されていました。このスペースグレイモデルの周辺機器シリーズは、最初はiMac Pro付属品としてしか手に入りませんでしたが、その後単独販売されるようになりました。

そして2019年モデルの新しいMac Proでは、これらの周辺機器にも更に変化がもたらされています。

Mac Pro 2019モデルのカラーリングは、側面のAppleロゴ、内部の部品、コードは黒くなっていて、ハウジングとフレームは銀色となっています。

このテーマに合わせて、ホワイト=シルバーアルミと、スペースグレー=ブラックの表面を組み合わされた、ツートンカラーの周辺機器のリミックスセットが今回のMac Pro 2019の付属品として特別に製造されることが発表されています。なお、このツートンカラーの周辺機器シリーズが単独販売されるかどうかについては未知数です。

初めてのキャスター付きMac

上記を見ていると、Mac Proの全てがこれまで販売されてきた製品のリミックスのように見えますが、実はそうではありません。これまで一切実現していなかったデザインをこのモデルでは実現しているのです。

それは、下部にキャスター(ホイール、車輪)をサポートする最初のMacとなっていることです。Appleは、スタンドに代わることができるカスタムの回転式ステンレススチール製センターレスホイールを設計し、オプションとしてMac Pro 2019のために用意しました。

最後に

Appleは、この新しいMac Proの設計と製造において、これまで実際に使用された技術か、試行錯誤された技術か、或いは完全に新しい技術を導入するかという岐路において、バランスをとることで最善を尽くしました。逆に、完全に新しい目玉機能はオプションのキャスター(ホイール)くらいなもので、目新しさがないといわれてしまえばそれまでになります。

Mac Pro 2019モデルはスペックや価格からしても相当なハイエンドのプロ市場に焦点を合わせているのかもしれませんが、実際、過去10年間の大部分の間、多くのファンや顧客から見ても不透明だった、デスクトップおよびプロフェッショナルユーザーに対するAppleの取り組みを再確認することができた素晴らしい製品だということがいえるのではないでしょうか。

しかしモンスタークラスの実力もさることながら、これらのデザインが活かされたMac Pro 2019とPro Display XDRは相当にいいお値段となっています。特にデザイン方面に関しては、スティーブ・ジョブズ時代の遺産を使うにはお金がかかるということなのかもしれません!?

記事は以上です。

(記事情報元:Arun Blog via 9to5Mac

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