Appleから4インチサイズの新型iPhone【iPhone SE】が3月に発表され、3月31日から第一弾販売国で販売が開始された。このiPhone SEはiPhone 5sの筐体にiPhone 6sのスペックを詰め込んだようなものだが、この機種がリリースされる前から、業界ではAppleがそのリリースの目的は何か?という推測を行ってきた。
多くのアナリストは中国とインド市場に展開するためと分析した。なぜなら価格の比較的安いiPhoneを投入することで、新興市場で多くの消費者をAppleのエコシステムに引き込めると考えていたのだろう。しかしマーケティング機構が最近発表した数字によれば、どうやらその予測は外れている。新興市場はこの【iPhone SE】にあまり興味を示していないのだ。
統計の数字からわかることは、Appleは【iPhone SE】によって、スマートフォン市場に比較的長期的な投資をしたということだ(とはいえ毎年進化する電子デバイスでは、本来の意味での”長期的”な投資ということはできないが)。これまでのiPhoneのフラッグシップモデルに比べ、リリースされたばかりの頃は消費者は強く惹きつけられず、爆発的な売上げを記録することはないが、この製品が狙っている消費者層は、新製品を心待ちにしているいわゆる「新しもの好きのAppleファン」ではなく、iPhone 5sやiPhone5c、ひいてはiPhone 5やもっと古い機種からの買い換えを真剣に考えている人達なのかもしれない。
iPhone SEはiPhone 5s/5c/5と同様に4インチディスプレイを搭載している。しかし内部のスペックは、細かい違いはあるもののほぼ最新のiPhone 6sと同じだ。そんなわけで、現状iPhone 5s/5c/5を使用している人にとっては、十分に魅力的な買い換えの対象となるというわけだ。
しかし世界中の全ての国や地域のスマートフォン市場でAppleがその戦略通りにiPhone SEを順調に売り出しているわけではない。一部の国や地域では、携帯電話キャリアのプラン内でのiPhone SEの価格がApple Storeで売っている価格と同じため、消費者としてはハイエンド機を買いたいという心理が働くという。もしキャリアプラン内の価格がApple Storeでの単体価格よりぐっと安くなれば、iPhone SEはもっと売れるようになるだろう。
マーケットリサーチ機構のLocalyticsが最近発表した統計によれば、iPhone SEがリリースされた後3週間でのiPhone SEの採用率は上のグラフのようになっている。最大目盛りが2%とかなり小さい数字での比較であることに留意していただければと思うが(しかも数字の最高が1%で、目盛りの2%との釣り合いがとれていないのもなんだか不自然であることも。。)、まずアメリカ・ドイツ・ニュージーランドがだいたい平均的な数字となっており、市場が比較的開放されている国や地域ではiPhone SEの採用率が高いことがわかる。カナダ・フランス・香港・イギリスでは採用率が1%となり、他の地域より高く、オーストラリア、中国、日本、シンガポールが採用率が低く0.2〜0.3%となっている。
※とはいえ1%以内で多い少ないという話をしているだけなので、正直世界的な国と地域のどこでも全然iPhone SEは売れていないという見方もできる。。
LocalyticsはiPhone SEの発売当初の採用率はiPhone 6やiPhone 6sシリーズと比べて圧倒的に低いことを指摘しており、また同じ4インチのiPhone 5sやiPhone 5cに比べても同じく比較にならないくらい低いとしている。しかしこれはある程度予測できていたことだ。全体的にデザインが全く変わっていないことや製品の位置づけを考えれば、iPhone SEは多くの消費者が「今すぐ買わなくてはいけない」と感じるものではないことは明らかで、4インチiPhoneを使っているユーザがデバイスを買い換えようと思い立った時の最良の選択になる可能性があるのだ。
Appleの今年の前半の戦略のカギは、どうやって新しいユーザ層を惹きつけるか、ということではなく、現在のユーザをもう1つの製品の更新周期に取り込むことだといわれている。MacBookとMacBook Airはより軽く時代を先取りし、iPad製品はiPad Proが登場してアップルペンシル(Apple Pencil)やスマートキーボード(Smart Keyboard)など外付けオプションデバイスを増やし、そしてiPhone SEではかつて多くの人を虜にした4インチディスプレイを配置した。全ては決められたレールの上を進んでいるのだ。
画蛇添足 One more thing…
ようは、Appleはイノベーションというよりも、これまでの製品群やサービスのリソースを使って、これまでのユーザを更にエコシステムや新たな買い換え周期に取り込もうという作戦になっているというわけだ。
個人的には製品ラインの複雑化と混乱、そしてイノベーションや”Think different”ではなくなってしまった結果なのではないかと思っていて、Appleが普通の企業がとりそうな戦略に陥っていることに寂しさを感じるのだが。
記事は以上。
(記事情報元:Forbes)