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米国トランプ大統領、Appleに米国の5Gネットワーク構築支援を依頼

米国ドナルド・トランプ大統領は結構頻繁に発言で「やらかす」ことがあります。例えば、メキシコとの国境の壁を作るといって、その延長上でコロラド州をメキシコから守ると発言したことがありますが、コロラド州は地図をご覧いただければわかるとおりメキシコに全く接していないことなど。。そして今回Appleのテキサス州にあるMac Proを製造する工場を訪問した際にもやらかしてしまいました。Twitterで「お金、技術、ビジョン、そしてクックがいる!」とAppleを持ち上げた上で、5Gの構築の支援を望んでいると書いたのです。念のため。。Appleは携帯キャリアではありません。

ちなみに真面目に説明すると、米国の携帯電話ネットワークは本質的に2つの部分に分かれています。まずは、携帯電話ネットワーク自体を作っている会社で、これらはキャリア(=通信事業者)と呼ばれます。米国では主にVerizon、AT&T、T-Mobile、Sprintの4社がこのキャリア業務を担当しています。これらのキャリアが米国全土に基地局というインフラを建てて、基本的に人が住んでいるところには電波をカバーし、適切な速度でネットワークを提供するという責務を負っていて、これには莫大な資本を必要とします。

そしてもう1つはそれを実際にユーザの手元で実現するための機械を製造する、いわゆる通信機器メーカーがあります。基地局側の5G機器ではスウェーデンのEricsson、フィンランドのNOKIAや中国のHuaweiとZTE(この4社で世界の90%以上のシェアを占めています。もちろん中国のHUAWEIやZTEは米国では締め出されています)等があり、端末メーカーではApple、Samsung、Huawei、Googleなどがありますが、これらのインフラや端末メーカーはキャリア自体がやることには基本的には意見をしません。もちろんお互いに補完する関係ではありますが、それぞれの業務や責務ははっきり分かれています。docomo/SoftBank/KDDI(au)という3大携帯キャリアが携帯電話本体の販売権を非常に強く持っている日本だけしか知らない方には想像がしにくいかもしれませんが、世界的には殆どが米国と同じようになっていて、日本がかなり特殊な状況なのです。

米国では、5Gの実現は完全に上記のキャリア4社、つまりVerizon、AT&T、T-Mobile、Sprintに依存しているといえます。つまり、Appleが米国での5Gネットワーク普及のために貢献できることは実はあまりないのが現実で、もしAppleが今日5G対応のiPhoneをリリースしたとしても(絶対にあり得ませんが)、即座に米国で5Gネットワークが普及するわけではないのです。

ましてや、Appleは自身で5Gネットワークに接続することもできません。現行で販売されているiPhoneには、主にIntelのベースバンドモデムチップが搭載されていて、これによって4Gまでのネットワークに接続できますが、5Gネットワークには接続できません。そして来年以降の新型5G対応iPhoneに搭載される5G対応モデムチップは暫くはQualcommから購買することになっていますが、これがないと全く5Gに対応できないのです。

ただ、米国ではまだまだ大きなシェアを誇るAppleが5G対応iPhoneをリリースすることで、上記の4大キャリアに5G普及のための発破をかける効果があるのは事実です。よい意味でとらえれば、トランプ大統領は早く5G対応iPhoneを出してくれとティム・クック(Tim Cook)CEOに依頼したというふうにもとれそうです。なぜなら、4G(LTE)の世界的な普及は、2013年にリリースされたiPhone 5の功績が大きかったことが挙げられるからです(当時は中国のLTE普及もAppleのiPhone 5に頼っていたところがありました)。

また、もっと踏み込んで考えれば、トランプ大統領はクックCEOに対して、もしかしたら資金力が豊富なAppleにキャリアのようなことをやるか、インフラに投資しろと言っているのかもしれません。ただ、ティム・クックCEOは2016年にもAppleがモバイルキャリアの分野に参入しようとしていることを否定して、「当社の専門知識はネットワークにまで及んでいません。一般的に、Appleがやりたいことはグローバルにできることです」とコメントしています。「eSIMを使用していくつかのことを行いますが、一般的に、私はキャリアが行うことを好みます。」とも発言しています。一般的にAppleと同様端末メーカーでもあるGoogleなどもキャリアの分野には踏み込まず、キャリアが提供するネットワークをうまく借りるという方法をとっています。その方がコスト的にもずっと得なのは目に見えているからです。Appleは自社によるWi-Fiルータ(AirPort=AirMacシリーズ)の製造もやめたほど、ネットワークインフラ機器に対してはリソースを割かない決定をしています。というわけで、Appleが今後すぐにキャリアの5G基地局ネットワークインフラの構築のためにお金を出すことは考えられないのです。

しかし他国を見れば、5Gは既に米国最大のライバル中国の各都市でサービスが開始されていて、米国は大きく後れをとった形になっています。5G基地局を他社よりも圧倒的に安価に作ることができる設備を開発したHUAWEIの米国からの締め出しが、5Gの普及を遅らせたともいえるかもしれません。中国は三大キャリア(中国移動、中国聯通、中国電信)がほぼ国営のようなもので足並みが揃いやすく、またそれらの3大キャリアが国からの支援を直接受けていること、また現在中国国内では中国国産Androidスマートフォンのシェアが非常に大きいため、キャリアとメーカーががっつりと一枚岩になって先に進められるという強い体制を持っています。トランプ大統領はこのような状況もあって、焦ってなりふり構わず発破をかけまくっているとも考えられます。

ただトランプ大統領は既に6Gに関するイニシアティブを世界的に握るための動きに出ていて(中国もですが)、5Gのことはそこまで重視していないということなのかもしれません。

なお、今回トランプ大統領のAppleテキサス工場の訪問で、トランプ大統領本人がアップしたTwitterでの映像や、娘のイヴァンカ・トランプがInstagramでアップした画像から、発売前の新型Mac Proの梱包箱の外観がリークしてしまいました。とはいえ、Appleとしてもこれを宣伝の好機とみているところはあると思います。

 

トランプ大統領は更にクックCEOと話し合った結果、Apple製品の中国からの輸入関税について追加課税対象外にすることも検討しているようです。その理由が、米国企業のApple製品が、米国において韓国企業のSamsungと同じ扱いになるのは不公平だからだ、としているところがなんとも。。ですが。本来はAppleからの税収が少ないことや、Apple製品をはじめとする米国製造業の米国内製造を推進したいからという目的だったのではないでしょうか。

トランプ大統領は根っからのビジネスマンです。Appleに不利になるようなことはそこまではしないでしょう。ただ、製造業の米国回帰というのは絶対にコストが合わないことは明白であり、正直全くあり得ない話で、そこは有権者へのパフォーマンスなのか何なのかわかりませんが、ビジネスマンの考え方ではないところで動いているのかなという感じがします。

記事は以上です。

(記事情報元:The Verge

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