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Appleのデバイスやアプリは真の意味のプロ向けではない?Appleなりの”プロ”の定義とは

Appleは今月、iPad “Pro”をリリースした。Appleには他にもMacBook “Pro”やMac “Pro”も存在する。さてPro、Proと書かれているがその”Pro(プロ)”っていったいAppleにとってはどんな人達のことを指すのだろう?中国のメディアiFanrが非常に興味深い記事を出していたので翻訳(一部意訳)して紹介したい。

Appleの求人広告から疑われた”プロ”に対する考え方

The Vergeが既に消去された記事の中で、Appleの公式ページでの人材募集欄の中に、「Adobe Premiereがわかる人(Adobeのプロ用の映像編集ソフトウェア)」という募集要項があったが、意外にもAppleはそこに自社のFinal Cut Pro Xのことを書いていなかったことを紹介した。それに対してThe Vergeはこんなツッコミを入れていた。

今やAppleは自社のFinal Cut Pro Xさえ使いたいと思わなくなったのか。

by The Verge(既に消去、リンクはAppleの人材募集ページ)

もちろんこれは単なるThe Vergeなりの皮肉に過ぎないだろうが、しかしこのような募集要項は実は業界内でもそれほど意外なことではない。事実、全ての映像編集を行う人がMacユーザというわけではない。しかしFinal Cut Pro XはPC版がないため、人材募集のためにはPCユーザの実情も考え、募集要項に他社の”Adobe Premiere”を入れるか、またはどちらかが使えると人いう風にしたのだろう。Adobe Premiereが使えるユーザにとっては、Final Cut Pro Xの使い方を新しく覚えるのはそれほど難しいことではないからだ。

ただ、皮肉は皮肉として、Appleのプロ向けアプリケーションに対する一種の態度が議論を呼ぶようになってきているため(例えばMacworldのこの記事のように)、このような皮肉を産んだともいえるのだろう。

 

Appleの”プロ”の捉え方に関する議論

Final Cut Pro Xの前身はFinal Cut Proだった。1999年にリリースされた当時はプロの映像制作現場から軽視されたものの、その後瞬く間にセミプロやインディーズ映画制作会社の間で広まり、その勢いはプロの映像制作業界も席巻するようになった。ゴッドファーザー3(God Father III)の有名なディレクター、Walter Murchもその後Final Cut Proを使い出し、Final Cut Proの名声を一気に押し上げたのだ。

2011年、Final Cut Proは重大なアップデートを迎える。それがFinal Cut Pro Xだった。しかし過去のFCPプロジェクトファイルのインポートができなくなっただけでなく、EDL・XML・OMFの非対応、一部のプロ向けの機能やマルチカメラ対応機能が削られ、またインタラクティブUIも大きく改変されて、まるでアマチュア向けの”iMovie”のような感じに変貌を遂げた。それによって、失望した多くのユーザがFinal Cut Pro Xのことを”iMovie Pro”とか”iMovie-fication”などと皮肉を込めて呼んだ。前出のWalter Murchさえも新しいFinal Cut Pro Xを受け入れられず、軽蔑さえしたのだった。

それに対し、Appleの対応はこうだった。

発売開始当初、AppStoreサポートセンターによると、利用規約に記述されている「(i) お客様には、個人的、非商用目的に限って本iTunes商品を利用される権限が与えられるものとします。」を根拠とし、「iTunes Storeでは非商用目的の、個人でご利用を目的としております」と回答しているため、Final Cut Pro Xはプロユースとしての使用できないとされていた。

引用元:Wikipedia「Final Cut Pro」

つまり、Apple自らによる元々プロユースではないという言い訳、解説がされてしまったのだ。

同じようなことが、その後も繰り返された。2013年、Appleが自社開発したOfficeアプリケーションのiWorkも大幅なアップデートが行われ、多くのプロ向けの機能が削られてしまった。メディアはこのことについて上記のFinal Cut Pro Xと並べて論じ、Appleはプロ向けのアプリケーションの開発をやめてしまったのではないかと疑い始めた。果たしてAppleはiWorkの後も、2014年にYosemiteの中にiPhoneのPhotosアプリを取り込み、これまでAppleが自社開発していたプロ向けの写真加工アプリケーションのApertureの更新をやめてしまったのだ。

更に、Appleは上記のように自社のプロ用アプリを”アップデート(実際はプロ向け機能を削減)”するだけではなく、プロ向けのハードウェアのアップデートについても無視するようになった。iPhoneやiPadなどは世代が毎年交代し、MacBook ProやMacBook Air、iMac、そして12インチ Retina MacBookと立て続けに異彩を放つ素晴らしい製品をリリースする一方、Appleの最もハイクラスのコンピュータであるMac Proは、長い間アップデートされずプロユーザから恨み言をいわれる始末だ。2013年に新しいMac Proがリリースされ、あの相当ユニークなデザインは本当に人の目を惹いたが、プロユーザの眼中には、これが2001年にAppleがリリースした失敗作、Power Mac G4 CubeにMac Proに重なって見えたかもしれない。

新しい”ゴミ箱”型Mac Proは、確かに非常に小さく、最新テクノロジーがぎっしりと詰め込まれた高性能コンピュータで、性能やスペックは強力で、Thunderboltには大きな拡張スペースがあった。しかし本体の体積が極度に小さく密集しているため、必要なときに行われるべきスペックの拡張は非常に難しく、そのことでAppleは少なくない人がAppleはコンシューマ市場しか見ておらず、プロユーザを軽視していると批判された。更に、Mac Proはもともと最初からプロ市場を満足するためにリリースされた製品ではなく、政治的に押しつけられた”Made in USA”を増やせという要求を満足させるためだったとか、またはアメリカでの自動化生産ラインの確立のために作られたのではないかとまで指摘されている始末だ。

 

Appleの”プロ”の捉え方

Appleは本当にプロの市場を本当に軽視し、捨ててしまったのだろうか?いや、恐らくそんなことはないだろう。Appleが近年積極的に開拓しているのはビジネス・クリエイティブマーケットで、この市場には多くのプロやセミプロユーザが存在する。そしてAppleは少なくともそこを狙って送り込める製品を3つ持っている。それはiMac 4k、iMac 5k、そしてiPad Proだ。

現在でも4kディスプレイはそれほど普及していないとはいえ、Appleはかなり早い段階で自社の一体型のコンピュータiMacを4k、そして5kに対応させ、iMacが4kクラスのプロの映像編集能力があることを暗示している。当然、プロユーザから見れば、Intel CoreプロセッサはIntel Xeonプロセッサにはかなわない。しかしインディーズ映像制作会社やセミプロユーザにとっては、一体化されたiMac 5kの方が最もコストパフォーマンスがよく、また便利に使えるデバイスだ。そして2013年にリリースされた新しいMac ProもAppleを1つ高いレベルに押し上げた。ただ、このフラッグシップモデルは現在でも時代遅れではないとはいえ、既に700日を経過した今でもほんの少しもアップデートされていない。それに対して、RetinaシリーズのiMacやMacBook Proについては、現在でもマイナーアップデートを毎年繰り返していることから、AppleがいかにiMacの背後にある市場を重視しているかがわかるだろう。

しかしもしiMac 5kが単にAppleのセミプロユーザの要求しか満たせないとしたら、iPad Proこそが明らかに本当のプロ路線かもしれない。Appleの言い方はこうだ。

iPad Proは560万のピクセルを持つRetinaディスプレイを搭載。すべてのiOSデバイスの中で最も高い解像度を誇ります。4Kビデオの編集も、プレゼンテーションのデザインも、ビジネスの経営も、あなたがするあらゆることを、この12.9インチのスクリーンがより簡単に、より速く、より魅力的にします。Multi-Touchのサブシステムも新たに設計し直したので、一段と幅広い方法でiPadを操作することができます。

by Apple公式サイト”iPad Pro”

しかしiPad Proの位置づけが更に”プロ向け”なのは、Apple Pencil(アップル ペンシル)にある。このApple Pencilを使うことで、プロユーザはまるで本当にペンや筆を使っているような感触を得られるのだ。プロユーザのApple Pencilの使い勝手については概ね満足度が高い。しかし唯一の問題はOS Xの時と同様に、プロユースのアプリケーションの対応が乏しいことだ。デザイナーのCarrieはこのように語っている。

もしiPad Pro上で少しでもヘビーなデザインをしようとしたら、全部の過程が非常に複雑になってしまい、結局ノートブックコンピュータのプログラムに戻らなければならなくなります。そしてデザインの仕事上よく使われるAdobe Illustratorは、iPad Proはサポートしていないのです。

引用元:iFanr(中国語)

つまり、Appleはプロを重視していないということではなく、往々にしてAppleの”Pro”向けデバイスの中から、”プロ向け機能”が失われている、或いは元からないというわけなのだ。

どうやら、Appleの眼中にある”プロ”は、我々一般の人の眼中の”プロ”とはちょっと違うのかもしれない

 

クリエイティブ・コンシューマ、プロシューマの概念

それではここで上記のFinal Cut Proの話題に立ち返って、Appleの”プロ”に対する見方を分析してみよう。

実は、Final Cut Proがリリースされた時から、Appleのプロに対する見方は既に我々とは異なっていたのかもしれない。ウィキペディア英語版のFinal Cut Proの発展の歴史には、以下のように書いている。

2000年代から、Final Cut Proは巨大なユーザグループを確立した。主に映像マニアやインディーズ映像ディレクターだ。その後、Final Cut Pro XはAvid Technology(プロ向け映像編集マシン)を使うプロのテレビや映画制作者を徐々に惹きつけていった。

…Final Cut Proを買うと最初から自らのチュートリアルができるように、そしてサードパーティでも教師達が教えられるように、Appleはナショナルブロードキャスティング協会にFinal Cut Pro PowerStart DVDやDVcreators.netを配布して提携を結んだ。ここ数年アメリカやカナダやその他の国では数百もの使用料金をとる工房が主催され、この策略が一定のレベルでFinal Cut Proの市場での早期の反響をもたらし、またマーケットシェア率の成長をもたらした。

引用元:Wikipedia “Final Cut Pro”(英語版)

言葉を換えれば、実はAppleのFinal Cut Proの最初の宣伝方式から、狙っていたのは”プロユーザ”ではなく、”プロ未満、素人以上”のいわゆる”プロシューマー(Pro-sumer)”だったことがわかる、ということなのだ。

上記で挙げられたプロ向けとされるソフトウェア、iWorkやPhotosなども、既に多くのプロ向け機能が失われている。つまり、実際はそういうことなのだ。

例えばPhotosを例に挙げてみる(上の写真)。メディアはこのPhotosをApertureほどプロ向けではないが、iPhotoよりはいいと評価している。PhotosはスピードにおいてはiPhotoより優れているが、フォトレタッチツールはより簡単になり、機能も強力になった。比較的ハイレベルなユーザはPhotosの中でも自分で影やカラーの調整をすることも可能だが、もしフォトレタッチに慣れていないユーザに対しては、自動的に調整する機能も搭載されている。

同様に、iPad Proのプロ向けアプリについても議論は尽きない。しかしある点について、多くの人が気づいていないようだ。iPad Proがもしかしたら本当にプロユースには物足りないとしても、iPad ProとApple Pencilの組み合わせは、実際Wacom等のプロユースのソリューションに比べて簡単で便利だということだ。海外ユーザがApple PencilとCintiqの使い勝手を比較しているが、iPad Proのメリットは、簡潔に整理された作業スペースと、タッチをすることによって画面を拡大・縮小することができること、そしてショートカットが更に明確であることだ(私のアマチュアの絵描きの友人も同じ事を言っていた)。そんなわけで、iPad Proには確かに未だに真のプロユースアプリがなく、真の意味ではプロの領域では真価を発揮できないかもしれないが、多くのセミプロレベルの絵描きや、これから絵画を勉強するユーザにとっては、Apple Pencilはまさにその敷居をぐっと下げるツールになるというわけだ。

言い方を変えれば、Appleはプロのマーケットにおいても、やはりAppleのままなのだ。彼らが重視しているのは、自らがどれだけプロのアプリを持っているかということではなく、いかにユーザにプロ機能を使ってもらうかということなのだ。

 

“Appleのプロ”には簡単になれる

Appleの主な収入源はもちろんハードウェアの販売で、コンシューマ市場が彼らの最も主要な顧客がいるところだ。彼らは1台のMac Proを売るための時間とコストで、3〜4台のMacBook Pro Retinaを売ることができるのかもしれない。ユーザのエコシステムチェーンの上で最高位に位置するのがプロ市場であって、そこでの製品の平均販売価格(ASP)は非常に高いが、このジャンルのユーザはデバイスの買い換えのペースが遅く、またユーザの数は比較的少数だ。そしてその領域向けに販売するにはメーカーが更に深く大きくテクノロジーにコストを投入しなければならない。そんなわけで、”選択と集中”をモットーとするAppleとしては、その専門性についてはAdobeやAvidやMicrosoftに勝っているとは限らず、またそれらに比べて優れている必要もないということなのだ。

Appleの強みは、人とデバイスの間のインタラクティブ性能にある。だからAppleが関心を寄せるのは、どうやったらもっと簡潔に、もっと簡単に”プロのUI”を使ってもらえるかということであって、セミプロユーザにもっと簡単にクリエイティビティを発揮してもらうことで、それによってデバイスをアップデートしてもらうことなのだ

 

アンチAppleの人や、Adobe/Avidの信奉者にとって、Final Cut Pro Xは単なるダメアプリに見える化もしれない。しかしFinal Cut ProがiMovieのように変貌を遂げたことは、Final Cut Proがセミプロユーザを惹きつけることになったということに他ならない。そしてiFanrの映像責任者のhowchanもMacユーザだが、彼はiMovieをFinal Cut Pro Xにアップデートしたことについて、「Macユーザで映像処理を初めて勉強するユーザは、誰もがOS Xの中にあるiMovieを最初に使うだろう。そしてFinal Cut Proがアップデートされ、そしてiMovieユーザもアップデートしようとしたとき、UIや操作の面でもiMovieに似ているFinal Cut Pro Xにすぐに簡単に適応できるだろう」と評価している。

 

Appleなりの”Pro”の選択

Appleはもともと、機能が非常に素晴らしく最強の性能を持つということで名を馳せてきたのではない。多くのAppleを嫌うユーザがiPhoneやiOSが開放的ではなく、機能的にもAndroidに劣ると指摘する。確かにこの指摘に対してはどれだけAppleに忠実なファンであろうともそれを完全否定することはできない。しかしAppleが一貫して持っているロジックはこうだ。「一切のユーザを邪魔するものを排除し、最も簡単な方法ですぐにツールとして使えるようになること」。Final Cut Proもそうだし、Photosもそうだし、iPad Proなどは正にそうだ。

もしiPad Proがプロのイラストレーターの要求を満たすことができないというのであれば、iMac 5kの性能は本当にプロの映像制作ユーザの要求を満たすことができていないだろうか?そんなことはない。つまり、Appleにとっての”プロ市場”とは、”全てのプロユーザ”のことを指すのではないということだ。もしあなたがiPad Proでは物足りないと感じれば、おとなしくAdobeやWacomの助けを借りればいいだけだ。

なぜなら、Appleの強みはもともと映像を編集したり、フォトレタッチをしたり、文書を処理することではなく、人とデバイスを結びつけるインタラクティブなインターフェイスを作ることだからだ。

 

画蛇添足 One more thing…

最後にとてももっともらしいまとめになっているため、感心したので翻訳させてもらった。

しかし、よく考えるともともとジョブズが戻ってくる前のAppleのMac(MacintoshやPower Mac等)はDOS/V互換機やWindows PCに比べて非常に値段が高く、そしてデザイン事務所や音楽レコーディングスタジオや映画制作などのプロの現場で使われていることが、Appleのイメージを「トッププロが好んで使う機材」といういいブランドイメージを定義づけていたような気がする。

そして一般ユーザもかなり背伸びしてMacを買って、自分もプロと同じ機材を使っているというなんとなく誇りというか、そのようなものを手に入れるのがApple製品が高くても売れる理由だったような気がする。

もちろん、セミプロや一般ユーザ向けにしたほうが数が売れるのは間違いない。そんなわけでMacはコンピュータ市場で昔に比べて現在の方が断然シェアがある。しかし市場をシフトするならば、もう少し安い値段にしてもらわないと、、というのが正直なところ。もちろん昔に比べてずいぶんと安くはなっているのだが、比べる相手がいるとやはり高いと感じてしまう。それでもAppleを使ってしまうのは、やはり一回Apple製品を使ってしまうと、UIの点やUXの素晴らしさから抜けられず、WindowsやAndroidでは満足できないからだろう。

もう1点、コンピュータ市場は世界的にますます萎縮しており、時代はモバイルだ。そんなわけで今後はAppleもiOSデバイス、そしてその先のウェアラブルコンピューティングなどにますますリソースを集中しているのかもしれない。

プロの定義でいえば、最近は例えば音楽レコーディングなども超高価なレコーディングスタジオを使わなくても、クラシックの交響楽団でなくバンドでの録音くらいなら宅録ができるようになっているように、アマチュア機材でもかなりのことができるようになってきたことも背景にあるかもしれない。本当によいものはお金をかけたり、プロ用の機材を使ったからできるものでもない、ということなのかもしれない。

記事は以上。

(記事情報元:iFanr

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