中国国産スマホSmartisan T1が値下げ。真心が現実に打ち砕かれる

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中国国産スマートフォン(Androidが殆ど)は非常に厳しい競争にさらされている。
中国ではもちろんiPhoneやSAMSUNGが売れているものの、そこまで手が届かない消費者がたくさんいる。そうなると、彼らの選択肢は中国国産スマホしかない。
現在地球で初めて最速で1兆円企業となったシャオミ(xiaomi、小米)をはじめとして、日本でも有名なファーウェイ(HuaWei、華為)、Meizu(魅族)、Oppo、nubiaなどが値段と性能の上でしのぎを削っている。

Smartisan T1の出現

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そんな中、Smartisan(錘子手機)というブランドが、今年5月にT1というキラーマシンを引っさげて登場した。このSmartisan T1は、デザイナーにAppleの元iPhoneのデザインを実際にしていた人を引き抜き、独自開発のUIを入れて、それを3,000元(約53,000円)以上という強気の値段設定にした(中国国産スマホは2,000元、約35,300円までというのが相場だ)。

Smartisanの創業者”羅永浩”の来歴

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Smartisanの創業者の羅永浩(中国では親しみを込めて老羅、と呼ばれている)は、吉林省延辺朝鮮族自治区の出身。もともとはSNSの牛博網を運営、初日で100万PVを集める人気となり、2008年に英会話学校グループ「老羅英語培訓学校」の経営を始め、成功した自伝の出版や講演等で全国で知名度があがった。その後2012年4月8日にスマートフォンビジネスに参加することを発表、2013年3月27日にはAndroidをもととしたカスタマイズUIを主体とした”Smartisan OS”をリリース、2013年5月には4.7億元の投資。そして2014年5月20日に正式に初めてのスマートフォンハードウェア、Smartisan T1をリリースした。このSmartisan T1は200人のエンジニアと、元Appleで工業デザインの総監をしていて、現在はデザイン会社ammunitionの創業者兼代表のRobert Brunnerがデザインを担当したことで有名となった。

羅永浩のシーメンス冷蔵庫ハンマー叩き壊し事件

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実は老羅が更に有名になったのは、彼が2011年9月にWeibo(中国版Twitter)で、「Siemens(シーメンス)の冷蔵庫と洗濯機が連続して壊れた。もう二度とこの悪運なブランドは買わない、やっぱり電気製品は日本製が頼りになるね」と書いて、大きな話題をさらった。そしてその証拠に冷蔵庫が閉まらなくなる不良を動画付きでWeiboにアップして説明した。しかしSiemensの中国支社はそれを認めなかったため、消費者の権利を守るためとして抗議行動を開始。2011年11月20日には北京のSiemens北京支社の前で3台の問題ある冷蔵庫をハンマーで叩き壊して話題となった。老羅はその後も活動を繰り広げたが、結局はSiemensはうまく時間を引き伸ばし、この問題は中国ではだんだん注目されなくなってしまっている。
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シーメンス叩き壊し事件のハンマーがSmartisanの象徴に

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この時のハンマーが、その後の彼の象徴となり、ブランドの中国語名の「錘子手機」はそのままハンマー携帯という名前になっているし、背面のT1のTの字はハンマーの形を意識しているといわれている。そして、ハンマーといえば、、あのまだ生意気だったAppleのCEOスティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)が作った、1983年にビッグブラザーとして登場するビッグブルー(IBM)にハンマーを投げつけるあの広告を彷彿とさせる。

そこまでの老羅の真っ直ぐな正義感、反骨精神と豊かな発想、そして歯に衣着せぬ物言いで喧伝されたSmartisan T1に、破竹の勢いのシャオミ(小米)のMI4があまりにApple iPhone5っぽすぎ、しかもMI3に比べて革新的でなかったことに失望した中国国内ファン達がこぞって注目したのは無理は無いことだろう。

Smartisan_羅永浩_錘子手機

Smartisan T1の受難、シャオミを追っかけて失敗し最後は妥協

しかしネックはその高すぎる値段、そして広告手段、そして販売ルートだった。Smartisan T1はその全ての要素において、中国国内市場に迎合して妥協してしまったのだ。
これ以降は、Sina Techに面白い記事があるので紹介したい。

Smartisan T1が値下げすること自体はそれほど意外なことではない。もっとも意外だったのは、一気に1,980元(約34,900円)に値下げしてしまったことだ。予想では、シャオミのMI4の2,000元よりも少し高めの2,050元くらいになるのではないかと思われたが、なんとシャオミよりも20元も安くなってしまった。これはなかなか挑戦的だ。このことは最も基本的な問題を表している。それは、Smartisanは量を求め、利益を捨てたということだ。いい見方をすれば、Smartisan OSがシャオミのmiuiをやっつけるほどの潜在的能力を持っているということを宣伝することができるということで、ハードウェアで儲けるのではなく、シャオミと同じようなトライアスロン路線を辿ろうとしていることだ。悪い見方をすれば。。いや、やめよう。私があまりに口が悪いと言われてしまうだろう。

いずれにせよ、Smartisanは正に一歩一歩、自分自身が最初非常に嫌っているものに近づこうとしているということだ。例えば、中国国産スマホの価格が非常に過当競争になっているが、Smartisanはそれに全く構うことなく、誇りを持って高い価格をつけていたことだ。羅永浩はインタビューで以前こんなことを語っていた。”私は携帯メーカーが新製品をリリースした時に高い価格をつけて、その後一気に価格を下げるというやり方にすごく反感を覚えるね。我々のこの価格はこの製品の寿命が来るまでずっと保ち続ける予定だ。次世代の製品がリリースされ、この世代の製品の在庫を捌かなくちゃいけない時になったら、価格を下げるよ”。しかし現状を見れば、老羅は既にそのインタビューで語った”すごく反感を覚える”そのメーカーに成り下がってしまったようだ。

Smartisanを嫌い陥れようとしている人たちがSmartisanの発展に影響したというよりも、Smartisanは典型的にシャオミにハメられてしまったという言い方のほうが正しいかもしれない。最初シャオミの創業者で代表の雷軍(Lei Jun)はmiuiの開発者には4、5人しか関わっていないと言っていたことを老羅は信じた。その結果、Smartisan OSはめちゃくちゃな結果となってしまった。その後、シャオミはSNSでの広告には1元も使わず、実際にはオフラインの広告を大量に打ったことについて、老羅は”国産携帯メーカーは最近は本当にみんなエレベーター広告が好きみたいだね、この半年でエレベーターの中でシャオミ、Meizu、Oppoとnubiaの広告を見たよ。思い返すとみんなおんなじような感じで特色がなかったな。みんなバラバラにやってるから、最終的には見た目にはみんな大差なく見えてしまう、これは容易ならざることだ。そうだ、シャオミの広告の「堡塁」というメッセージはちょっと特徴があるね、「バカ」だね”と揶揄した。そして今日中国のエレベーター内で見られるのはSmartisanの16枚ものパターンにわかれた”特色があります”というポスターだ。広告のフォーカスポイントさえなく、広告の中の変わり者といってもいいだろう。その後販売ルートに関してもシャオミは自身のオフィシャルサイトでしか製品を売らないとし、Smartisanもそのようにしたが、オフィシャルサイトでは全然売れず、結局Suning(蘇寧)などの大手家電量販店の力を借りたり、最近はネットショップ大手のJingDong Mall(京東)で売ったりしているらしい(しかも販売数を大幅に水増しするなど大問題になっている)。

つまりこれはシャオミの広告宣伝文句を追っかけて製品を作ってしまった末路というところだろう。最後には価格問題は打ち破ることができず、広告の問題は避ける事ができず、販売ルートの問題についてはもちろん既存のルートをやめるわけにいかず、実は中国のこの業界の中では、たった一社がイノベーションができる空間というのは非常に限られていて、今のところ自社のスマホのOSのUIやアイコンを替えることくらいしかリスクのないやり方はないのだろう。

Smartisan T1の製品そのものについては、羅永浩が自分の言っていることと製品のできが矛盾しているところがたくさんある。たとえばMeizuがiPhone4をパクったことについて嘲笑した割には、バックカバーを開けてバッテリーを交換できない、白黒のケースがバカっぽい、Homeボタンが出っ張っていて間違えて押しやすくなってしまう、dock上に3つしかアイコンを置けないなど、これらの間抜けなデザインがSmartisan T1にも受け継がれてしまっている。更にもっとマヌケなのは2つずつもある音量ボタンだ。そして製品のマズいデザインだけでなく値付け、営業戦略、広告等多方面が足を引っ張っている。このような全面的に事前に他を嘲笑しておいて後で自分の製品については妥協するというやり方は、業界にはもともと規律があって、大部分のものはちょっとしたアイデアくらいではひっくり返らないこと、そしてもう一つ注意が必要なことは、何かをひっくり返そうと息巻く人は、単に表面だけそういっているだけで、本質は他と大して変わらない昔からのやり方をやるということだ。そして国産スマホはその低価格、広告、販売ルートについては全て避けて通ることができないということだ。

Smartisan T1の実機を触ってみたが、私は好きではないタイプのものだった。表も裏もガラスデザインというのは金属ボディに比べたら高級感がなく、重くて分厚いのは致命的で最悪のユーザ体験をもたらす。Smartisan OSがもし仔細までよくできていたとしても、実際はスマートフォンの主要な機能にはそれほどの助けにはならない。例えばシステムアニメーションエフェクトや、太陽が出ている時間によってデスクトップの色が変わったり、フォルダを作れないなどは全く慣れることができない。私はデスクトップは2ページまでが好きで、アイコンが羅列しまくるのは好きではないからだ。

もちろん、これらの問題は3,000元という価格を見るとなんとひどいと思うが、もしこれが1,980元だったらまあそれなりに受け入れられるかもしれない。なぜならシャオミほど悪くないからだ。しかし液晶ガラス割れ保険には入っておくべきだ。

画蛇添足:中国国内市場は世界で最も厳しい市場と心得るべし

中国国内市場というのは、非常に特殊な市場だ。もちろん中国も東西南北や都市の大小などで大きくその戦略が変わるため、一概に中国全体がどうということは難しいが、1つの業界内ではある程度の既得権益があり、そこを崩していくのは当然難しい。
そして世界中の企業がひしめき合い、生き馬の目を抜く競争が繰り広げられている。今が華の携帯業界においてはそれが最も激しい。世界のトップといっても過言ではない中国人の精鋭の頭脳が結集し、寝る間も惜しんで競争を繰り広げているのだ。並大抵のことではない。決定が遅く、ガラパゴスのように保護された生ぬるい日本企業がとても太刀打ちできるわけがないのはわかるだろう。

そんなところに羅永浩が率いるSmartisan T1は果敢に向かっていったが、いかんせん製品の魅力に欠けたこと、そして何より価格戦略・営業戦略・広告戦略を間違ってしまったためにそれを打ち破ることはできなかった。

中国の携帯業界の現状は、シーメンスの冷蔵庫のように簡単にハンマーでは壊れなかったようだ。
老羅は非常に悔しい思いをしているだろう。個人的には彼に同情したい。

では、今の中国国産スマートフォンで何が注目なのだろうか?それはまた別の機会に。。

記事は以上。

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